最終章

あれから三週間後、遂に旅立ちの時が来た。
俺は港にてサフィアと共に遥か海の彼方を眺めていた。これからどんな冒険が待っているのか、想像するだけで心が躍る。

「……もうすぐ出航か……」
「そうですね……寂しいですか?」
「ああ、ちょっとな……まぁ、二度と戻ってこれない訳じゃないさ。二人でまた帰ってこような」
「はい」

俺はふと少し離れて停泊している愛船、ブラック・モンスターへと視線を移した。俺の仲間たちが出航の準備を進めていて、その中には初めて共に旅をする新しい仲間がいる。今頃はヘルムが新しい仲間たちに指示を出しているだろう。

実は三週間前の帰郷を機に、海賊を辞める仲間たちは少なからずいた。その分新しく仲間を募集したところ、予想以上に多くの人たちが集まってきた。そこで俺は急遽面接を行い、応募してきた人たちの数人かを判定して仲間に迎え入れた。
本音を言えば一緒に行きたいと言うやつは喜んで仲間に入れたいと思うが、流石に限度がある。それにこれからの旅で新たに仲間が増える可能性も否定できない。残念だが、選ばれなかった人たちには次まで待ってもらおう。

「あ、あの、キッド船長!」

突然、背後から俺を呼ぶ甲高い声が聞こえた。サフィアと共に振り返ってみると、そこには背が低く、幼い顔立ちの少年……俗に言うショタっ子が緊張した面持ちでたたずんでいた。
こいつの名は確か、コリック。仲間になる為に集まってきた人たちの中で、俺が最初に会った子だ。当初は緊張しているのが目に見える程、臆病な印象が強かったが、海賊になりたいと言う強い意志は集まってきた人たちの誰よりも強かった。その気合を見込んだ俺は新しいキャビンボーイとして仲間に入れる事に決めた。
コリックは姿勢を直立に正し、気合十分と言った声で言った。

「このたびは、僕を……じゃなくて、私を海賊団の一員として船に乗せてくださって、誠にありがとうございます!船長の為に努力を惜しむ事無く、日々精進いたします!」

言ってる事はありがたいんだが、やっぱりどこか緊張気味なんだよなぁ……。

「畏まる必要なんてないさ。そんなに固くなってたら、海を渡れないぜ。もっと気を楽にしな」
「は、はい!」

俺はそう言ったが、コリックはまだ緊張している。ここは直接手を下す必要があるな。

「ちょっと、こっちに来てくれ」

俺が手招きをすると、コリックは戸惑いながらも俺の下にやってきた。よーし……!

「おらおらおら!こちょこちょこちょっとぉ!」
「わ!ちょ、何を……アハ、アハハハハ!ちょ、止め、止めて……アハハ!アハハハハハハハハ!」

俺はすかさずコリックの身体をくすぐった。コリックは爆笑しながらも俺の手から逃れる為に身体を必死でよじった。やがて俺が手を離すと、コリックは腹を抑えて激しく息切れした。

「どうだ?気は楽になったか?」
「……え?」

コリックはポカンとしながら俺を見た。

「もっと自分らしさを出していこうぜ。俺たちはもう仲間だ。畏まる必要なんかない。これからは固すぎる対応は無し!分かったか?」

俺の言葉に、コリックは見る見るうちに緊張が解れて明るい笑顔を見せた。

「は、はい!よろしくお願いします!」
「よし、それじゃあ出航の準備に行ってくれ。詳しい事は、ブラック・モンスターに乗っている副船長のヘルムに聞いてくれ」
「はい!それでは、お先に失礼します!」

コリックはペコリと頭を下げ、駆け足でブラック・モンスターへ向かって行った。
そこへ……。

「船長さん、ちょっと宜しいですか?」

今度は、お淑やかな感じの声が俺を呼んだ。そこには、鮮やかな色の着物を着こなしている狐の耳を持った女……要するに、稲荷が立っていた。
この稲荷の名は、楓。現在、世界中の料理を研究しているようで、実際に旅をしてもっと料理を勉強したいとの事で、俺の仲間になるのを志願してきた。面接の際に楓が作ってきた料理を食べてみたが、これがまた唸るほど美味かった。おまけに魔術に長けているらしく、戦闘においても活躍してくれるようだ。俺はその腕を見込んで料理人として仲間に入れる事に決めた。

「今晩の食卓ですけれど、船長さんは冷や奴と揚げだし豆腐、どちらがお好みですか?」

冷や奴はジパングの名物である豆腐を冷やした料理で、揚げだし豆腐は豆腐を油で揚げてだし汁をかけた料理だ。面接の時に食べた事があるから知っている。

「そんな事、俺が決めて良いのか?食卓の決定権はお前らにあるんだぞ?」
「はい。どちらにするか迷ってしまいまして、今回は船長さんに決めてもらおうと思いました。今日船長さんに選ばれなかった方を明日か明後日に回そうと思います。」
「そうか、それじゃあ……揚げだし豆腐で頼む」
「かしこまりました。わざわざお時間をかけてしまいまして申し訳
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