それは沈没から始まった

「……ふわぁ〜……暇だ……」


メインマストの見張り番はなんて退屈なんだ。
この仕事を請け負う度に、欠伸をしながら毎回同じ事を考えていた。

「見張りっつってもなぁ……こんなに平和な海を眺めてもつまんないな……」

かれこれ海賊になってから三ヶ月程度しか経ってないが、任されるのは決まって見張りの仕事ばかり。他に頼まれる仕事といったら、せいぜいジャガイモの皮むきとか皿洗いとか……所謂雑用業務だ。
とは言っても、戦闘では役立たずだし、医療の知識も皆無だし、航海術なんてからっきし。こんな俺自身、大したスキルも無いから当然と言えば当然か。

「……俺、此処に居る意味あるのか?」

だが、現状暇である事は変わりない。見張り番とは言っても、仮に敵船が来たら他の同僚が先に船長に報告するし、大雨とかサイクロンとかの悪天候は航海士が事前に処置するし……。
今更ながら、俺は除け者にされてるんじゃないかと思えてきた。

「あ〜あ、なんか面白い事でも起きないかな……」

……この一言が、これから起こる前代未聞の大事件となるのであった。

「な〜んて、ある訳無い……って」

一人で寂しくブツブツと独り言を呟いていたら……ふと、何やら周囲の景色が変わっている事に気付いた。

「……あれ?」

いや、正確に言うと、視界に広がる海原は何も変わってない。極めて普通の、何時も通りの平和な海だ。

「……なんか……視界が下がってるような……?」

だが……心なしか、自分の目線がどんどん下がっているように感じる。
俺は特に身体を動かしている訳でも無いが……どうなってるんだ?

「……俺がおかしいのか?」

そう思った末に思わず自分の身体を見直してみたが、何処にも異常は無い。
やっぱりおかしいのは自分じゃないようだ。


「……て言うか……これって……」


そして、マストから真下の甲板に視線を移して、ようやく今の状況に気付いた。
……正直言って、呑気な事してる場合じゃない。て言うか、こんな状況下に気付くのが遅すぎる俺も馬鹿だった。

なんでそんな事言うかって?いや、だって……だって……。





「沈んでんがなー!!」





今俺が乗ってる海賊船は……徐々に沈みかけてる!
てか沈んでる!三分の二くらい!もう海水が入ってきてるし!



「ぎゃあああ!沈むー!」
「なんで!?なんでだ!?船底に穴でも開いちまったのか!?」
「それにしたって沈むスピードが速すぎる!」

下にいる同僚もパニックを起こしてあたふたと慌てている。
確かに穴が開いたにしても沈むのが異常なまでに速い。
なんだか……何かに引きずられているようだ。


「そろそろ頃合ね……」
「おわぁ!海の魔物!?」
「ふふ♪これはまたとない絶好のチャンス!と言うわけで、やっちゃえ〜♪」


そして船が半分以上沈みかけてるところで、好機とばかりにスキュラやネレイスなど、海の魔物の群れが同僚たちに一斉に襲い掛かってきた。


「ちょ、止めろ!話せんぐぅ!?」
「ヤッバイ!このお兄さん、好み
#9829;頂いちゃお〜っと♪」
「ひぃぃ!止めて!ズボン脱がさないでぇ!」
「あん
#9829;可愛い反応
#9829;堪んない
#9829;」
「あぁっ!ちょ、やば……気持ち良い……」
「まぁ、正直な男は大好きよ
#9829;」


……案の定、同僚たちは海の魔物に次々と連れ去られていく。中には沈没してゆく船の上でヤり始める輩も居るが……正直、童貞の俺には目の毒が過ぎて困る。
いや、困ってるのはこの状況か。幸い、俺はメインマストと言う、一番高い位置に居るお陰でまだ魔物たちに見つかっていない。だが、このままだと確実に魔物に連れ去られてしまう。高みの見物状態が、少しずつ低みの見物状態に……。

「……おいおい、マジかよ……」

もはや船の胴体は完全に海の中へ沈んでしまっている。同僚たちは既に一人残らず魔物たちに連れ去られてしまい、船に残っているのは俺一人だけ。これだけでもう絶望的なのには違いないが……。

「……もう……覚悟するしかないのか……」

沈み行くマストの見張り台にて、俺はこれからの自分の運命を悟った。
俺……これから魔物に攫われるのかなぁ……。
どんな魔物に攫われるのかな?
スキュラ?ネレイス?カリュブディス?マーメイド?メロウ?シー・ビショップ?シー・スライム?セイレーン?
考えてみれば海の魔物って結構いるんだな。
俺はどんな子に捕まるんだろうな……俺はおっとりしたお姉さん系の人が好みだからシー・ビショップとか良いなぁ……って!


「泳ぐって選択肢があったじゃないか!」


呑気に悟ってる場合じゃない!
こうなったら、死に物狂いで泳ぎまくって、どこかの島に逃げてやる!


「おりゃ〜!」


覚悟を決めた俺は
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