〜〜〜今現在〜〜〜
「…………ム……ルム…………ヘルム!」
「はっ」
聞きなれてる声が僕を呼び、僕の意識を取り戻させた。
「おいおい、大丈夫かよ?目ぇ閉じて黙りこんじまったから、眠ったのかと思ったぞ」
「あはは……大丈夫だよ。ルミアスとのお別れを思い出してさ」
「……そうか……」
僕の向かい側に座ってるキッドは、グラスに残ってるウィスキーを一気に飲み干した。
「ふぅ……そうだ。ルミアスって聞いて思い出したんだが、お前の行動力も大したもんだな」
「え?何の話?」
「いや、今身に着けてるブレスレットの事だよ」
「ああ、これか」
キッドに指差された左手首にそっと手を添えた。
服の袖で見えてないけど、実は月のブレスレットは今でも身に着けている。戦闘の時も、風呂に入る時も、夜寝る時も、肌身離さずちゃんと付けている。ルミアスとの誓いの証は、これからも何があっても手放さない……そう決めたんだ。
「ルミアスたちを見送った後、カリバルナに住んでる一流の魔術師に頼んで、そのブレスレットに魔力を掛けるように頼んだんだろ?」
「ああ。独り身の魔物から避けられる魔力をね。そのお蔭で今でも助かってるよ」
「俺にはそんな発想は無かったな。初めて聞いた時には『その手があったか!』って感心しちまったよ」
そう……今キッドが言った通り、僕が付けてる月のブレスレットには魔力が込められている。それも、夫のいない魔物から遠ざけられる魔力だ。
これは僕が自ら望んだ事でもある。ルミアスとの誓いを守る為に、僕はカリバルナに住んでる魔術師に、ブレスレットに魔物除けの魔力を与えるように頼んだのだ。その魔術師は元は教団に属していた為か、魔物を避ける魔術も容易に出来た。
お蔭でこのブレスレットは、今では誓いの証でもあり、大切なお守りとなっている。現にこの船には未だに夫のいない魔物が少なからず乗ってるけど、今まで言い寄られた事は一度も無い。今日まで魔物に襲われなかったのも、このブレスレットのお蔭だ。
「……あ、そう言えばヘルム……」
ふと、キッドが何かを思い出したような仕草を見せて僕に話しかけた。
「お前さ、ルミアスと出会う前は剣一本で戦ってたよな?」
「ああ、そうだね」
「だが、あの日……ルミアスと離れた日から何を思ったのか、盾を使い始めたよな。まさか、それもルミアスと何か関係があるのか?」
「へぇ……そこに気付くとは流石だね、キッド」
そう……一昔前の僕はちょっと短めの剣一本で戦うのが戦闘スタイルだった。その時は盾なんて使ってない。
キッドが今言った通り、実は僕が盾を使うのには一つの理由がある。
それは……ルミアスとの誓いの証であるブレスレットを守りたいからだ。
「簡単に言うと……この左腕のブレスレットを戦闘で傷付けたくないのが一番の理由なんだ。あの店の店長は、簡単には壊れないって言ってたけど、それでも不安になってね。それでどうすれば良いのか考えた結果、盾を持って戦う事にしたんだ」
「そう言う事か……」
「ああ、知ってるだろうけど、僕は右利きなんだ。だから自然と左手に盾を持つ構えになる。ブレスレットと同時に僕自身の身も守れて、まさに一石二鳥……そう思わない?」
「確かにな」
キッドは納得したように口元を吊り上げた。
使い慣れてなかった分、盾をマスターするにはちょっと時間が掛かってしまった。剣と盾……それぞれ一つずつ片手に持って戦う戦法は簡単そうで難しい。何度もやられそうになったところをキッドに助けられた日々は今でも覚えている。
それでもルミアスの事を思うと、懸命に頑張る事が出来た。今では難なく盾で敵の攻撃を防げるし、盾そのものを武器として扱う事も出来る。何事も努力を怠らなければ、ちゃんと成果が実るものだと実感した。
「はぁ〜……ルミアス……」
「おいおい、まさかもう酔ったのかよ?大丈夫か?」
「いや、まだ酔ってないよ」
ルミアスの顔が頭に浮かんだ途端、切ない気持が一気に募り、思わずテーブルに項垂れてしまった。
まだアルコールに負けてないと自覚してはいるけど……間違ってもやけ酒だけは避けよう。
「……ま、ウジウジしてても仕方ないよね。飲み直そう」
「お、そうそう!夜は長いんだから、楽しまないとな!」
折角の晩酌なのに項垂れていたら勿体ない。
そう思い、改めて酒を飲もうと思っていたら……。
コンコン!
「ん?」
突然、窓を叩く音が聞こえた。
何事かと思い、音の方向へと振り向いて見ると……。
「あれは……カラステング?」
「だよな……?」
そこには、船の外でカラステングが翼を羽ばたかせながらこちらを窺っていた。恐らく、さっきの窓を叩く音もあの人の仕業だろう。
一瞬キッドと顔を見合わせたが、あのまま放置する
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