「今日もお疲れ様。乾杯!」
「乾杯!今日もお疲れさん!」
夜空に青白い三日月が浮かぶ時間帯にて、僕ことヘルム・ロートルは、親友のキッドと二人でダイニングにて晩酌を始めていた。
ビールやワインなどの酒をテーブルに並べて、ビーフジャーキーやピーナッツなどのお摘みと一緒に楽しむ、ごく普通の晩酌。それでも長く付き合ってる友達と一緒に飲む酒は何よりも美味だった。
「ゴクゴク……はぁ!しかし、こうして二人で酒を飲むなんて久しぶりだな」
「そうだね。最近忙しかったし、キッドの方もサフィアさんの相手で時間が取れなかったからね」
「うっ……なんか悪いな……」
「気にしないでよ。好きな女を大切にするのは男として当然でしょ?お嫁さんと過ごす時間も大事にしなきゃ」
僕はロゼワイン、キッドはウィスキーのソーダ割りを飲みながら他愛もない会話を交えた。
何時もならキッドはシー・ビショップのサフィアさんと一夜を過ごすのが日課だけど、今日は久々に二人で飲み明かそうとキッドが提案したところ、サフィアさんも快く承諾してくれて今に至る。今頃ピュラちゃんと同じベッドでスヤスヤと寝ているだろうね。
「そう言われると頭が上がらないな。流石に恋愛に関しては先輩だと言われるだけはある」
キッドは微笑みながら、この船の料理人を務めている稲荷の楓が作ってくれた鶏の唐揚げを口に運んだ。僕も続くようにカマンベールチーズを摘み、ワインを胃に流し込んだ。
「恋愛に関してはって……先にお嫁さんが出来たのはキッドじゃなかったっけ?」
「実際はそうだが……先に恋愛成就させたのはヘルムだろ?」
ウィスキーを一口飲んでから、意味ありげな視線を僕に向けてきた。
……その目を見れば言いたい事は分かってくる。
キッドは彼女について言ってるのだろう。キッドも実際に会った事があるから憶えている筈だから。
「そうだね……そう言えば、あの日からもう三年は経ってるんだね……」
「あの子……元気にしてるかな……」
「元気だと思うよ。元から元気だし」
「はは、だよな」
ふと……彼女と共に過ごした光景が頭に浮かんだ。
共に笑い合ったり、喧嘩したり、仲直りの後にまた笑い合ったり……本当に楽しい日々だった。
三年前の……あの日までは……。
「ルミアス……」
〜〜〜三年前〜〜〜
三か月に及ぶ航海が一段落したところで、僕はキッドと共に、生まれ故郷であるカリバルナへと帰郷していた。
「それじゃ、次の航海はこのルートで行くか」
「そうだね。ジパングにも興味あるし……このルートなら旅の期間は約一ヶ月だね」
「それまでに十分身体を養っておかないとな」
様々な人たちで賑わう酒場……夕方になってきた為か、店の中は仕事を終えて酒を楽しむ男たちの活気で満ち溢れていた。現に店の片隅には、アルコールが強いウィスキーを飲みすぎてグロッキー状態になってる男の山が出来ていた。
「しっかしまぁ……よくもこんなに騒げるもんだな」
「まぁ、たまには思う存分はしゃぎたいんでしょ」
そんな賑やかな空気の最中、僕は酒を一滴も飲まずに、店の片隅の席に座ってキッドと時を過ごしていた。
テーブルにカリバルナを中心とした海図を広げ、三ヵ月後からの航海ルートをキッドと話し合って決めていたところだった。
「で、今日はヘルムは飲まないのか?」
「この後家に帰って、本を五冊くらい読み切ろうと思っててね。酔っ払ってる状態じゃ文字もまともに読めないよ」
「相変わらず勉強熱心だな。俺じゃとても真似出来ない」
「キッドはもっと本を読むべきだと思うな。今度三冊くらい貸そうか?」
「いや、気持ちだけ受け取っておくさ。考えるだけで頭が爆発しそうだ」
「君は相変わらず肉体派だね」
「お前は相変わらず頭脳派だがな」
……やっぱりキッドと一緒に居ると楽しい。幼い時からの親友と過ごす時間は何よりも格別だと、胸を張って言える自身がある。
僕が今まで海賊の副船長を続けてこれたのも、キッドの支えがあったお陰だと思っている。正直言って、人の上に立つ役割は昔から苦手だったけど、船長であるキッドがフォローしてくれてるお陰だと常に思っていた。
カランカラン
「……あ、キッド殿。此処におられましたか」
「ん?」
店の扉の鐘が鳴ると同時に、凛々しい女性の声が聞こえた。
何者かと思い振り返ってみると、カリバルナの騎士の服を着ているケンタウロスがこちらに歩み寄ってきた。
「おお、アンタか。こんな所まで来てどうしたんだ?」
「はい、ルイス国王様が王室まで来て欲しいとの事で」
「叔父さんが?」
どうやらルイス国王からのお呼びがかかったらしい。
実はルイス国王はキッドの叔父であり、僕たちの海賊家業を援助してくれている人物でもある。
事実、このカリバルナは海賊
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