場所は変わって、ここはカリバルナ。
サフィアの救出に成功した俺は、その後サフィアを連れてカリバルナに戻ってきた。カリバルナに着いた時には既に辺りは暗くなっていた。
宴、もとい歓迎会の準備が進められる中、大広場の中心に位置する噴水の外枠の台座に腰かけている叔父さんの隣で、叔父さんにその時の事情を説明した。
「そうか……あのバランドラが……」
俺の話を聞き終えた叔父さんはあごに手を添えて呟いた。
「なぁ、叔父さん。バランドラは教団にいた頃からあんな性格だったのか?」
「いや……私が知っているバランドラはそんな男ではない。やり方こそ残虐極まりなかったが、態度は至って紳士的だった。しかし……予想だにしてなかったな……まさか、かつての敵がすぐ近くにいたとは……」
俺の質問に答えた叔父さんは、何か考え込む仕草をした。
サフィアを助けに行く時に、まさか叔父さんの因縁の人と戦うなんて思ってもなかった。俺にとってバランドラはサフィアを攫った許し難い敵だったが、同時に叔父さんの宿敵でもあった。
今思えば、俺はかつてこの国で好き勝手な真似をしていた暴君にとどめを刺したと言う事になる。もっとも、俺が直接手を下した訳じゃないんだがな……。
そんな叔父さんに、俺は安心させるように言った。
「心配する必要はないさ。バランドラは、もうこの世にはいない。叔父さんを殺そうとする奴なんか、もういないさ」
「残念だが、そうとは言い切れない」
叔父さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「かつて、この国を追い出された教団の人間はバランドラだけではない。バランドラの悪行に自ら進んで協力した人間も少なからず存在していた。恐らく、その人間たちの数人かはまだ生きているだろう……」
そうか……教団の人間はバランドラだけじゃなかった……。
それでも俺は、叔父さんの肩を軽く叩いて言ってやった。
「気にし過ぎだぜ、叔父さん。その教団の人間たち全員が叔父さんを殺そうとしているとは限らないだろ?ちゃんと心を入れ替えて真っ当な道を選んで生きている人もいるさ!」
「……ああ、そうだと良いな……」
俺の言葉に叔父さんは微笑みながら頷いた。
そこへ……。
「キッド」
「キッドお兄ちゃん!」
二人の声が俺を呼んだ。気付くと、俺の前にサフィアとピュラがケンタウロスの背中に乗せてもらっていた。
二人は宴が始まる前であるにも関わらず、辺りに並ぶ屋台に関心を抱き、叔父さんの計らいでカリバルナの騎士を務めているケンタウロスに案内してもらっていた。
「国王様、只今戻りました」
サフィアとピュラが降りるのを確認すると、ケンタウロスは背筋を伸ばして叔父さんに敬礼した。
「おお、御苦労さま。すまないね、急なお願いをしてしまって」
「滅相もございません。国王様のお頼みとあれば、喜んで承ります」
「フフッありがとう。では、いつもの勤務に戻ってくれ。あまり頑張り過ぎないようにね」
「ハッ!それでは、失礼いたします」
ケンタウロスは深々とお辞儀をすると、人混みの中へ去って行った。ケンタウロスを見送ったピュラは楽しそうに笑っていた。
「お兄ちゃん、宴って楽しいね!見た事のないお店や食べ物がいっぱい並んでるね!」
「それは良かったが……まだ宴そのものは始まってないぞ?」
「うん、でも見てるだけでも楽しいよ!」
ピュラは人懐っこい笑みを浮かべながら見て回った店について話し始めた。
その笑みは屋台を見たからじゃなく、サフィアが無事だった事が原因だな。
サフィアが無事で嬉しい。ピュラの顔にそう書いてあるのが分かった。
ついさっき、サフィアと再会した時もピュラはサフィアに飛びついて泣きじゃくっていた。その時、ピュラにとってサフィアはどれ程大切な存在であるかが窺えた。
そう言えば、ピュラは両親を亡くして一人ぼっちになっている時に、サフィアと出会い共に旅をしていたんだよな。例え血が繋がっていないとしても、サフィアとピュラは家族の様なものだ。その大切な人が無事である事の喜ばしさは俺にも分かる。
本当に良かった……この子の元気を取り戻せて……。
「ねぇお兄ちゃん、聞いてる?」
考え事をしていた俺はピュラの声で我に戻った。ピュラは不思議そうな表情で俺を見つめていた。
「あ、ああ、悪い悪い……お!そうだ!ピュラ、ちょっと手を出してくれ」
俺の言葉にキョトンとしながらも、ピュラは右手を差し出した。俺は懐から小さい革袋を取り出してピュラの手に乗せた。
「それ、開けてみな」
俺は革袋を開けるよう催促した。ピュラは言われたように革袋を開けて中身を見た。
「……えぇ!?お兄ちゃん、これって……!?」
革袋を開いて中身を見たピュラは目を丸くしていた。
「今日はせっかくの宴だ。それで欲しい物を沢山買いな」
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