「……ごめん、ちょっとおかしくなってた……」
「気にするな……その……なんと言うか……」
「ん?」
「……いや、なんでもない。それより、話を続けたいが……」
「あ、うん、お願いね」
バジル君を抱きしめて一先ず落ち着いた私は、バジル君の話を聞く事にした。私はベッドの傍にある椅子に座り、バジル君は私の真正面でベッドに腰掛けている。
「村を襲った海賊たちを全員始末した後、村の仲間たちが遅れて海賊の拠点に着いたんだ。その時に俺は盗まれた金品とジャスミンの遺体を仲間たちに任せて……そのまま旅に出る事にしたんだ」
「え?なんでそこで旅に出たの?」
「ガスタリ村では自然との共存を尊重する習慣がある。自分たちが生きる為に他の植物や動物の肉を食べるのは許されているが、無闇に生物の命を消すような行為は禁じられている。人殺しを犯した村人には、掟として村から追放させるルールがある。ガスタリ村の掟を破り、村で暮らす資格は無くなったと判断した俺は、追放と言われる前に自ら村を出て行くと決心したんだ」
「そんな……」
バジル君は村の掟に従い、自分で故郷を出て行ったらしい。
そうか……帰りたがらない理由はそう言う事だったんだ。沢山の人の命を奪っておいて、今更帰る気にはなれないようだけど……。
でも、それでも私はバジル君が悪いとは思えない。復讐は良い事だとか、そんな海賊なんか死んで当然だなんて嘘でも言えないけど……。
「皮肉な話だが、俺がその百人の海賊を一人残らず殺した事により、そいつらに懸けられていた分の賞金を程無く得る事が出来た。その事に味を占めた俺は賞金稼ぎに成り上がり、海賊や山賊など……あちこちで悪さをしている悪党の首を狩って、その賞金を稼いで旅をする事になったんだ」
「旅を始めた時から賞金稼ぎになってたんだね……」
「ああ……」
「……バジル君……」
頭に浮かんだ疑問を、そのまま質問した。
「昔はともかく、今も海賊を憎んでるの?」
「……確かに昔は憎んでいたさ。だが、今はもう海賊そのものを憎んでない。メアリーや黒ひげ、それに……キッドの様に良い海賊もいると分かっているからな」
「そっか……」
妹を海賊に殺されたバジル君は、もしかしたら今でも海賊を憎んでるのでは?
そう思って質問したけど、どうやら今は海賊自体は憎んでないようだ。それを聞いてホッとした。私も海賊だから、もしかしたら裏でバジル君に憎まれてるのかと不安になったから……。
これでバジル君の過去について色々と知る事が出来た。妹がいた事も、その妹はもう、この世にいない事も……。
今ここでバジル君の過去を聞かされて、私はバジル君について何も知らなかったのだと思い知った。辛い過去を胸に抱えて、その後たった一人で何の目的も無い旅をして……一目見ただけでは分からないけど、そんなに大きい傷を心に負ってたなんて……。
「ガスタリ村を出て行ってからどれくらい経ったの?」
「そうだな……もうかれこれ十ヶ月は経つな……」
「そんなに!?」
十ヶ月って……もう半年以上は村を出て行った事になる。思った以上に長い年月を経ていたようだ。でも十ヶ月も一人だけで旅をしていたなんて……面には出してないけど、寂しい旅だったのだろう。
「一人で旅をしていた間に、一度でも里帰りしようとは思わなかったの?」
「……俺の過去の話はたった今聞いただろ?人殺しの俺が故郷に戻る権利なんか無いんだ」
「家族や友達に会いたくないの?」
「いや、それは……」
そう答えるバジル君の表情は、どこか寂しそうに感じた。
この様子を見れば分かる。バジル君もきっと心の奥底では故郷に未練があるのだろう。今まで一緒に暮らしてた家族にも、親しい友達にも会えなくて心細いと思わない理由が無い。
でも……このままじゃいけない。このままバジル君を放っておく訳にはいかない。
……もしも私が……バジル君の為にしてあげられる事があるのだとしたら……!
「バジル君!私ね、このままじゃダメだと思うんだ!」
「お、おい、いきなり何を言い出すんだ?」
バジル君はいきなり話を切り出されて戸惑ってるが、私は思い切って自分が考えてる提案を言った。
「バジル君……ガスタリ村へ行こう!黒ひげさんに頼んで、航路を変えてもらおうよ!」
「な、なに言ってるんだ!無理に決まってるだろ!」
バジル君の故郷、ガスタリ村へ行こうと聞いたバジル君は明らかに動揺している。
バジル君は故郷へ戻るのを躊躇ってるけど、本心では両親や友達に会いたいと思ってる筈。過去に何をやったのかはともかく、自分の故郷に帰るのに権利なんか必要無い。本人は無理なんて言ってるけど……無理なんかじゃない!
「なんで無理なの?昨日黒ひげさんも構わないって言ってたじゃん!」
「何度も言ってるだろ!俺にはあの
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