タイラントとの戦いを終えた俺たちは、氷の島では環境が悪すぎて気を養うには不適切な場所だと判断し、アイス・グラベルドから少し遠く離れた位置にある小さな無人島に移動した。その時はメアリーは勿論、バジルと黒ひげも同行する事になり、黒ひげに至ってはダークネス・キング号に乗って俺のブラック・モンスターと並んで海を渡った。
「……ほう、実に興味深い」
「だろ?俺も一度だけその国を訪れた事があってさ、そこのビールは格別に美味かったぞ」
「ビールか……フフフ、実に興味深い」
「ハハハ!本当に酒が好きなんだな」
「酒は万物にも勝る百薬の長よ」
「薬……になるのか?」
無人島に到着してからちょうど二日経った日の夜……俺と黒ひげは浜辺にて、ブラック・モンスターから持ってきた椅子に座って、今の世間の状況について色々と雑談していた。黒ひげは30年もの間、氷塊の中に封印されていた為か、今現在の世界の情勢については何も把握してない。そこで俺が今の世界について色々と話す事になった。
こうして色々な話を交えると、ほんの僅かではあるが黒ひげについて色々と分かってきたような気がしてきた。黒ひげと出会う前は極悪非道な海賊としか思ってなかったけど、こうして話してると普通の人間と何の変りもない。。何故あんな悪名が広まったのかは分からないが……少なくともこれだけは言える。
黒ひげは……髭を生やした酒好きのオッサンだ。ただそれだけの事……。
「……我が30年も眠っておるうちに、世界は変わっておったのだな……」
ふと、黒ひげはしんみりと夜空に浮かぶ無数の星を見上げた。自分が長い間眠っていた時に世界が変わった事に対し、少し寂しさを感じているのだろうか。
……黒ひげは……これからどうするつもりなのだろうか?
よく考えたら、黒ひげは奇跡的にも30年も長く氷の中に眠り続けていた。以前は黒ひげだって多くの部下を従えて海賊として冒険の日々を送っていたのだろう。しかし、今となっては黒ひげに残されてるのはダークネス・キング号だけで、部下なんて一人もいない。船を動かす事は出来るかもしれないが、あんなデカい船に自分一人だけで乗るなんて……心細いだろうな……。
「……なぁ黒ひげ、アンタはこれからどうするつもりなんだ?」
「……そうだな……」
黒ひげは視線を俺に戻して……どこか寂しそうな表情を浮かべながら答えた。
「……これからは一人で再び海賊稼業を始めるか……」
「海賊を続けるのか?」
「我の墓場は海上だと決めておる。生まれ持っての海賊であるが故にな」
そうか……改めて考えると、今の黒ひげには冒険を共にする仲間が一人もいない。30年も経った今では、かつて黒ひげと航海を共にした仲間たちの行方も分からない。黒ひげ自身は海賊を続ける気でいるのだろうけど、そうなると一人での旅を余儀なく始めるしかないのだろうか。
……黒ひげを……俺の仲間に加えようか?
そう思っていると……。
「キッド、そろそろ準備が出来ますよ」
「……お、もうすぐだな」
「おお、肉か。酒と合う食べ物は好物よ」
俺の傍にサフィアが歩み寄って来た。そして視線を移すと、船から持ち出した複数のバーベキュー用の焜炉に火を灯して準備を進めてる仲間たちの姿が見えた。炭火で焼かれる肉の美味しそうな匂いが鼻を擽る。
十分に休養を取った俺たちは、戦いが終わった後の宴会としてバーベキューパーティーを始める事にした。実は今回の宴で飲む酒やバーベキューの食材はアイス・グラベルドに停泊していたラスポーネルの船から取ってきたものだ。お蔭で大した出費もなく安上がりなバーベキューを楽しむ事が出来る。そういった意味ではあの変な紳士に感謝するべきか。
まぁ、欲を言えば一発くらい殴り飛ばしたかったが……そこは割愛しておこう。
「あ、そう言えばメアリーは?」
「メアリーさんでしたら、一人で月を見に行ったバジルさんを呼び戻しに行きました」
「おお、そうか」
どうやらメアリーはバジルを呼びに行ったようだ。そう言えばバジルの奴『満月を見に行ってくる』なんて言って、一人で遠くの浜辺の方へ歩いて行ったんだった。
……あいつはこれからどうするつもりなんだろう?
不意にもそんな事を思ってしまった。今思えば、あいつは元々ラスポーネルに金で雇われてた身分だ。今はもうラスポーネルとは縁を切ったらしいが、バジルはもうフリーになった事は間違いない。
また新しい雇い主でも探すのだろうか?それとも賞金稼ぎらしく、賊の首を狩って金を稼ぐ日々を送るのか?詳しい事は俺も分からない。
まぁ、あいつにはあいつの人生がある。それについて俺が横槍を入れる筋合いはないから、何とも言えないけどな。
「さてと……」
俺は椅子から立ち上がり、サフィアと黒ひげと一緒に仲間たちの下へ向かおうとし
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