「ピュラ、速く速く!」
「待ってよ、お姉ちゃん!そんなに急がなくてもいいじゃん!」
私は今、ピュラを連れてカリバルナへ向かっている。後ろからピュラが抗議の声を上げているけど、あの場所に行けると思うとつい速く泳いでしまう。
昨日、人間の男性とネレイスの夫婦の儀式を執り行った時、ネレイスの方がカリバルナの出身である事を聞いた。そして儀式を執り行った後、ネレイスの方はお礼としてカリバルナの場所を教えてくれた。
もしかしたら、またキッドに会えるかもしれない。そう思った私は早速カリバルナに直行する事にした。
「ねぇ、お姉ちゃん。カリバルナって『海賊の国』って呼ばれてるんでしょ?本当に大丈夫なの?」
私の隣に追いついたピュラは少し心配そうな表情で訊いてきた。
「大丈夫ですよ。カリバルナの海賊は罪のない人たちを襲わない良い海賊なんです。なんたって、その海賊の船長はキッドなんですから。前にも話しましたけど、キッドは優しくて、カッコよくて、笑顔が素敵で、それで……」
「お姉ちゃん!惚気話は程々にしてよね!」
「…………ごめんなさい」
ピンク色モード全開の私にピュラの容赦無い体裁が入る。
こんなところ、キッドに見られたら笑われるよね……。
心では反省しても、あの場所に行けると思うと、つい顔がにやけてしまう。そんな私を見て、隣にいるピュラは呆れたように首を振っている。
もし、また会えたら何を話そうかな……。
泳ぐスピードを落とすことなく、私はキッドに会った時の事を考えていた。
私の事、覚えてくれているかな?
あのペンダント、大事にしてくれているかな?
もしかして、誰か別の人と結ばれたのかな?
そんな不安が頭を過る。でも、今はそんな事を思うのは止めよう。今はとにかくカリバルナに行かなきゃ。考えるのを止めて、私は泳ぐ事に専念する。
すると…………。
「キャー!」
「いやー!」
「みんな、逃げて!中層へ、速く!」
突然、女の人の悲鳴が聞こえた。突然の事で私とピュラは思わず止まり、悲鳴が聞こえた方を向いた。そこで見た思わぬ光景に私は息を呑んだ。人魚たちが、我先にと海の奥へ逃げていたのだった。海上を見上げると、ガラの悪い人間の男たちが船から人魚に向かって銃を乱射していた。
どうしてこんな事を?
私がそう思っていると、船に乗っている男たちが私たちの存在に気付いた。
「おい、あっちにもいるぞ!」
「何だ?片方はまだガキンチョじゃねぇか」
「構うもんか、人魚である事に変わりはない!」
すると、船に乗っている男が銃を向けてきた。その先には……。
「ピュラ、危ない!」
咄嗟にピュラを抱きしめるように庇った。その刹那、銃声と共に背中に鈍い痛みが走った。
「お姉ちゃん!」
ピュラの叫びが私の頭に響いた。同時に、海上から男たちの歓喜の声が聞こえた。私の腕の中でピュラが必死になって何度も私を呼んでいた。でも、その声が徐々におぼろげに聞こえ、力が自然と抜け、意識が朦朧としてきた。
「ピュ……ラ…………逃げ………………て…………」
それでも懸命に力を振り絞り、ピュラに逃げるように言う。
もう……だめ…………ピュラ……あなただけでも……逃げて……………………。
私の意識は、そこで途切れた。
******************
「野郎ども! 念願のカリバルナだ!思う存分楽しめよ!!」
「ウォォォォォォ!」
俺は故郷のカリバルナに到着した。今回の旅は一カ月の時を経たが、カリバルナは相変わらず平穏な雰囲気が出ていた。そして俺たちを温かく出迎えてくれる住民たちも相変わらず元気だった。
「海賊のみなさーん! お帰りなさーい!」
「キャー!キャプテン・キッド!こっち見てー!サインしてー!」
「かっこいいなぁ……僕もいつか、こんな海賊になるぞ!」
住民たちから黄色い声援が送られてくる。
故郷に帰る度にこんな歓迎をされるが、少し照れくさくて未だに慣れない。
「お帰り、キッド。今回の旅はどうだった?」
「おかえりなさい。長旅で疲れたでしょ?思う存分休んでね」
住民たちが見守っている中、この国の王、もとい俺の叔父さんであるルイス・スロップさんと、叔父さんの妻であり、この世界の魔王の娘、リリムでもあるアミナ・スロップさんが温かく迎え入れてくれた。
「お久しぶりです、国王様、王妃様。このような手厚い歓迎をしていただき、誠に感謝しております」
「おいおい、敬語とその国王様、王妃様と言うのは止めてくれと言ったじゃないか。私たちは家族の様なものだ。そんなに畏まる必要なんかないだろ?」
「まぁそうだが、一応叔父さんは国王だし、やっぱり挨拶はキチンと言っておかないと。何よりも……叔父さんは俺の……恩人だからな」
「……立派になったな、キッド……」
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