第十四話 黒き海賊 VS 白き暴君

「…………」
「…………」

黒ひげさんとタイラント……二人が睨み合ってから場の空気が一気に静まり返る。何もせずに時が経つにつれ、緊張感が徐々に高まっていく。

「……メアリー、あの男は本当に黒ひげなのか?」

と、私の隣にいるバジル君が耳打ちしてきた。
まぁ、30年前に死んだと思われてた人が急に目の前に現れたのだから、信じられないのもしょうがないけどね。

「うん、信じられないかもしれないけど本当だよ。キッド君が『手配書の顔と同じだ』って言ってたし、さっき私たちが乗ってたダークネス・キング号も黒ひげさんしか操れない船だから、本物で間違いないよ」
「そうか……まさか二人もこの世に蘇るとは……」
「え?二人?」

バジル君が言ってるのは、恐らく黒ひげさんの事なのだろうけど……二人ってどういう意味?

「ねぇ、二人ってどういう事?黒ひげさん以外にも蘇った人がいるって事?」
「ああ、信じられないかもしれないが……あのタイラントとか言う女は30年前に黒ひげと決闘した勇者なんだ」
「ふ〜ん……って、えぇ!?ウソ!?あの人が!?」
「嘘じゃない。30年前に死んだと思われてたが……俺の目の前で蘇ったんだ」

バジル君の衝撃的な発言には驚かずにはいられなかった。
黒ひげさんと教団の勇者の決闘は聞いた事があるけど……あのタイラントが本当に黒ひげさんと戦った勇者!?
だとしたら、とんでもない展開になってしまった。因縁のある二人の実力者が再び対峙するなんて……。

「……貴様に一つ訊きたい事がある」

と、黒ひげさんの一言によって静寂が破られた。

「貴様……何故教団の虚け共に肩入れする?何故勇者を名乗っておるのだ?」

突拍子もない事を言いだされたにも関わらず、タイラントは鋭い視線で黒ひげさんを睨み続けている。

「私が人々を守る勇者である事に、理由などありません!私たち人間を導いてくださる主神の名の下に、悪を葬り去る!ただそれだけの事!」
「……ほう……」
「私は決して屈しない!罪無き人々が平穏に暮らせる日々を送れる為に戦う!この命に代えてでも!」

タイラントは黒ひげさんに向かって力強く宣言した。
……如何にも勇者って感じの人だ。人間を守る為なら、自らの命を犠牲にする覚悟まで見せている。こうして見ると、決して悪い人ではなさそうだけど……。

「……フッ、心にも無い綺麗事を並べおって」
「な、なんですって!?」

だが、黒ひげさんはタイラントを鼻で笑った。そんな黒ひげさんの態度に腹が立ったのか、タイラントは怒りの表情で一歩踏み出した。

「私は綺麗事なんて並べません!主神の加護の下、明日を生きようとしている人々の為にも……」
「ならば訊こう!何故教団の虚け共に手を貸しておるのだ!?」
「何故って……私と同様に人間たちを守る立場であって……」
「違う!30年前の仕打ちを受けておきながら、何故そやつらと共にいるのかを訊いておるのだ!」

黒ひげさんはタイラントの背後にいるラスポーネルと教団兵を指さして言った。
30年前の仕打ち?タイラントは何か酷い目に遭ったとでも?

「貴様、あの日の出来事を忘れたとは言わせぬぞ。なんせ我と貴様は同じ被害者であったであろう?」
「…………」

黒ひげさんが淡々と話しているが、タイラントは何も言わずに黙々と話を聞いている。
いや、でも……話が飛びすぎて事情が呑み込めない。そもそも30年前に何があったの?

「あ、あの……話に割り込んで申し訳ないんだけど……30年前に何があったの?私、ちょっと事情が分からなくて……」

恐る恐る片手を上げながら黒ひげさんに訊いてみた。こんな時に口を挿むのも恐縮だけど、このまま置いてけぼりにされるのも嫌だから……。

「30年前……我は部下を引き連れてこのアイス・グラベルドに上陸した。しかし、タイラントが先に上陸し、我が島の奥へと足を運ぶのを待ち伏せておった」

と、黒ひげさんから話を切り出した。良かった……気に障ってはいないようだ。

「その時、我はタイラントと……」
「……そこで一騎打ちが始まったんだね?」
「否、戦っておらぬ」
「へ?」
「そもそも、刃など交えておらぬわ」
「え?え?」

予想外の返答に戸惑ってしまった。
あれ?おかしいな……。黒ひげさんはタイラントと戦って、負けてしまった結果、力を振り絞ってタイラントを道連れにした……と聞いてたんだけどな。
それなのに戦ってないとか……話が変な方向へと向かってる気がする。

「当時、教団がタイラントを出向かせたのは事実であろうが……あの虚け共は最初から我のみを葬る気ではなかった」
「え?どういう事?」

だんだん話が違ってくる気がする。我のみってのは一体……まるで黒ひげさんだけではなく他にも誰かが狙われてたように聞こえる。

「教
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