第八話 波乱!攫われたキャプテン!

「ふんふふんふふ〜ん♪」

茜色の夕焼けを背景に、鼻歌交じりでキッド君たちの船に向かっていた。
バジル君とお別れした後でも、あの楽しかった一時が忘れられずに上機嫌に足を進めている。

いや〜、楽しかったなぁ……。
今度は何時遊べるかなぁ……。
また会いたいなぁ……。

さっきからこの思考の繰り返しである。そしてニヤニヤが止まらない。
端から見れば変な人かもしれないけど……でもやっぱり楽しかったなぁ〜!

「……お!見えてきた!」

そんな感じで暫く歩いていると、ようやくキッド君の海賊船ブラック・モンスターが見えてきた。
そう言えば、時間的にはもうそろそろ楓ちゃんが夕食の準備を進めてるハズ。
バジル君と遊ぶ為とはいえ、色々と誤魔化しちゃったから……その分頑張ってお手伝いしなきゃ!
そう思って駆け出そうとしたら…………。

「…………ん?」

突然、誰かが船から下りてきた。遠くて良く見えないけど……何か大きな革袋のような物を担いでいるのは理解出来た。

…………ん?あれって……もしかして……

「キッド君……?」

改めて良く見ると……その下りてきた人は間違いなくキッド君だった。
そしてこちらに気付いてないのか、私とは反対側の方向に向かって歩き出した。

キッド君……こんな時間に何処へ行くのかな?
あんな荷物を持って、どうしたのかな…………?



……なんだろう、この胸騒ぎは……。
なんだか……今からとんでもない事が起りそうな気がする。


そう思えてならなかった。
だって……私に気付かずに去って行くキッド君は……なんだか真剣な表情を浮かべてたから…………。



***************



畜生!あのクソ野郎め…………!



俺は北の海岸へと足を進めながら心の中で毒づいた。
今から俺はラスポーネルとか言う海賊に攫われたサフィアを助ける為に、黄金の髑髏を持って奴らの下に向かっている最中だった。

奴が突き付けた条件通り、俺は一人で行く事にした。
ヘルム達からは『一人じゃ危険だ!』と言って俺に付いて行こうとしたが、仮にも二人以上で来たらサフィアの命が危ない。そう判断した俺は一人で行く決心をした。

正直、折角手に入れた秘宝をあんな奴に渡すのは非常に悔しいが……それでサフィアを助けれるのなら安いものだ。
待ってろよ、サフィア!俺が必ず助けてやるからな!

「…………ん?」

暫く歩いていると、何やらボロボロの服を着た二人組の男が見えた。巨大な岩の壁を背に、無言でこちらを見つめてる。
何だ、あいつらは……?まさか、ラスポーネルの部下か?

「……こっちへ来い」

一人の男がこっちへ来るように促してきた。俺は仕方なく、二人組の男の下まで歩み寄った。

「その顔……お前がラスポーネル船長が言ってたキッドだな?」

一人の男が無愛想に訊いて来た。
ラスポーネルの名を口に出したと言う事は……やっぱりこいつらは奴の部下か。

「ああ、お目当ての物を持って来たぜ」
「よし」

俺が革袋を見せると、二人組の男は徐に背後の岩の壁に手を付けた。
なんだ?こいつら、一体何をやって…………。






ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!




「なっ!?」


次の瞬間……岩の壁の一部に巨大な穴が開いた!


「この穴を通れ。ラスポーネル船長がお待ちかねだ」

一人の男が親指で穴を指して先へ行くように促した。
こいつら……魔術師か?人は見かけによらないものだな…………。

そう思いつつ、俺は壁の穴に入って行った。思ったよりも穴の入口から出口までの長さは短く、ホンの数歩だけ歩いて穴から出られた。

「やぁやぁキッド君!待っていたよ!」

声が聞こえた方向へ視線を移すと……そこには奴が居た。

「ラスポーネル……!」

サフィアを攫った張本人が髭を撫でながら俺を見ていた。そして奴の背後には、部下と思われる男が複数立っている。


……ん?あれは……。


ふと、海岸に停泊している船に視線が移った。そこそこの大きさで、大砲が幾つも並んでる。
恐らく、あれはラスポーネルの海賊船なのだろう……。

「さて、早速だがアレを渡してもらうよ」
「それより、サフィアは無事なんだろうな!?」
「まぁまぁ、そうピリピリしないでくれたまえ」

威嚇しながら言い放つと、ラスポーネルの隣に黒い渦が現れた。そしてさっきと同じように……黒いローブの男が赤いクリスタルを連れて出てきた。

「サフィア!」
「キッド!」

巨大なクリスタルの中には未だにサフィアが閉じ込められている。
怯えた表情で俺を見つめるサフィアを見た途端、今すぐにでも駆け寄って助け出したかったが……何とかその衝動を抑えた。

今ここで下手に動いたら、それこそサフィアが危ない。
ここは耐えるんだ……!秘宝を渡せば全て
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