「はい、そうです……いきなり後ろからぶつかってきて……」
「ふむ、成程な……」
私は、泥棒の騒ぎを聞いて駆けつけた街の警備員に事情を説明していた。目の前にいる警備員のオーガは相槌を打ちながらメモを書いている。
「ムッキー!もう少しで逃げれたのに!」
「コラ!ピーピー五月蠅いわよ!いい加減に大人しくしてなさい!」
縄で縛られて取り押さえられてる怪盗の……いや、泥棒のシロップが喚いてる。そしてすぐ傍では、オーガの後輩と思われる警備員のメドゥーサがシロップを窘めていた。
「……で、そこの兄ちゃんが槍を投げて泥棒を止めたって訳かい?」
「あ、はい……彼が助けてくれました」
オーガはチラッと私の隣に立ってるバジル君へと視線を移して訊いた。バジル君の方は腕組みをして黙々と私たちの会話を聞いている。
……でも、まさかこんな所で……それもこんな形でバジル君と再会するなんて思ってなかった。そりゃ、また会いたいとは思ってたけど……まさかこんなに早く会うなんてね……。
「しっかし、槍を投げて泥棒を止めるとは大したテクニックだな」
「いや……俺は街中で武器を使ったんだ。褒められるべきではない」
オーガの称賛に対し、バジル君は鼻に掛ける素振りも見せずに答えた。
「まぁ、確かに街で凶器を投げるのは良くないし、本来なら連行するところだが……今回ばかりはちゃんとした正当防衛だ。罪には問われないよ」
「ちょい待ちんしゃい!なんでそうなりますの!?それ、差別ですわ!」
と、いきなりシロップが声を荒げた。
「大体ねぇ!わたくしだって危うく串刺しになるところだったのですわよ!これ、明らかに暴行罪ですわ!」
「アホか!本はと言えば、泥棒なんてみっともない真似したあんたが原因だろ!?人の金をふんだくるなんて恥ずかしくないのか!?」
警備員のオーガは、未だに悪あがきを続けるシロップに怒鳴った。しかし、怒られてるシロップは全くもって悪びれた様子はない。呆れると言うか、なんと言うか……。
「あら、怪盗が物を盗むのに何を恥じらう必要がありまして?」
「は?怪盗って……あんたが?」
「その通り!わたくしの名はシロップ!ウルトラ・スーパー・スペシャル・ビューティー!誰もが見惚れる美しき……」
「……リル、そいつ黙らせろ」
「はい、レイサ先輩」
レイサと呼ばれたオーガに指示され、メドゥーサのリルさんは徐にシロップと目を合わせ…………
カキンッ!!
「先輩、終わりました」
「よし、ご苦労」
シロップはたちまち石の様に固まってしまった。
改めて見ると……戦闘力の高いオーガのレイサさんに、敵を石化して動きを封じるメドゥーサのリルさん……これってある意味恐ろしい組み合わせだ。街の警備員としては良いコンビかもしれない。
「さて、アタイ等はこの変な女を取調室まで連れてくが、もう行っても良いかい?」
「あ、はい、ありがとうございました」
「おっと、礼ならそこの兄ちゃんに言ってやりな」
レイサさんはニヤリと笑みを浮かべながらバジル君へと視線を移した。
……まぁ確かに、バジル君のお陰でお財布を取り返せたんだから、ちゃんとお礼を言わないとね。
「そんじゃ、達者でな」
「もう二度と盗まれないように気を付けてね」
レイサさんは石化したシロップを肩に担ぎ、リルさんと共にその場を去って行った…………。
「……さて、一先ず泥棒の件は片付いたが、まさか被害者が貴様だったとはな……」
隣に居るバジル君が呟くように静かに言った。
驚いてるのは私も同じ。またしてもバジル君に助けられるなんて……でも、なんだか嬉しいな♪
「あ、えっと……お陰でお財布を取り返せたよ。ありがとう!」
「いや、別に……」
改めてバジル君に向き直り、ペコリと頭を下げてお礼を言うとバジル君は視線を逸らして言葉を濁らした。
でも心なしか顔がちょっと赤くなってる……照れてるのかな?なんか可愛いな……。
「……話は変わるが、貴様がここに居ると言う事は……あのキッドとか言う男も近くにいるのか?」
「あ、それは……」
そうだ……そう言えばバジル君は賞金稼ぎだった。もしもキッド君たちがこのマルアーノを訪れてると知ったら……恐らくキッド君の首を狩りに行くかもしれない。
そう考えると、私はどう答えれば良いのか分からなくなってしまった。
「……先に言っておこう。仮にも奴が近くに居るとしても戦う気は無い」
「え?そうなの?」
「たまには羽を伸ばそうと思っていたところだ。だから仕事は休み。キッドの首を狩る気も無い」
「そ、そうなんだ……」
言葉に詰まってしまった私を見かねたのか、バジル君は淡々と話し始めた。
一応、今日は海賊に手を出す気は無いみたいだね……て言うか、賞金稼ぎにも休日なんてあるんだ。でもまぁ、
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