「…………はぁ…………」
テラスで霧に覆われている空を眺めている内に、無意識にも溜め息を吐いてしまった。
故郷を飛び出し、彷徨った末に見つけた、この廃墟と化した館に住み着いて早1年は経った。いくら手を施しても消えそうにない汚れが目立ったり、歩く度に床が軋む音が響いたりと、住居としては至らないところが多々あるものの、1年も住み着いてしまえば非常に安らぐ場所となった。
今のところ、此処から10分程度飛んだ所に小さな国がある為、食料や日用品にも困らない、不自由の無い暮らしを送る事ができている。ただ、この不自由の無い暮らしには、孤独を感じていた。この孤独が、私を喪失感に苛まれる事を幇助していく。
「……はぁ……」
これで何度目だろうか、又しても溜め息を付いてしまった。
……このままではノイローゼになりかねない。気晴らしに、空中散歩でもするか。
私は、魔力で背中に巨大な黒い翼を生えさせ、夜空へと飛び出た…………。
************
「……おい、大丈夫か、コリック?」
「ハ、ハ、ハイ!だ、大丈夫です!」
暗い森の中を歩いている最中、キッド船長の呼びかけに対し、僕は自分なりに威勢の良い返事を返した。
でも、情けない事に、声が震えているのが自分でも分かる。ついでに、体中も震えている。
「おいおい……震えっぱなしじゃないか?怖いのは分かるが、怖がり過ぎるのも考えものだぞ。お前は今日、記念すべき初上陸を果たしたんだ。せっかくの冒険なんだから、楽しんで行こうぜ」
「だ、だ、大丈夫です!怖くないです!これは、武者震いです!全く持って、問題無いです!」
「武者震いねぇ…………」
キッド船長に余計な心配をかけないように虚勢を張って見せたが、そんな僕に対し、船長は怪訝な顔をした。
やっぱりキッド船長には全てお見通しのようだ。初めての上陸で良いところを見せようと思ったのに、我ながら情けない……。
すると、僕の隣から同行しているシャローナさんがサキュバスのしっぽを振りながら励ます様に話しかけてきた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。私と船長さんが一緒にいるんだから、気楽に行きましょ」
魅力的なウインクをするシャローナさんが頼もしく見えた。
確かに、キッド船長は強くて頼もしい。シャローナさんは船医だから、もしも怪我をした時は助けてくれる。海賊でありながら、半人前の僕にとって、これ程心強い人たちが一緒にいてくれるだけでもありがたい。
なんだか、気が楽になってきた。
「お!いい顔を見せてきたな。そうそう、その感じでもっと冒険を楽しもうぜ!」
船長は大きな手で僕の小さい背中を叩いてきた。
憧れのキッド船長に勇気付けられた!
そう思うと、僕の心は完全に躍った。そして、足取りが軽くなり、怖いと言う感じが全て吹き飛んだ。
よーし!頑張ってキッド船長に褒めて貰うぞ!
「あら、そろそろ抜けられそうね」
僕が心の中で気合を入れていると、周りに立っていた木々が少なくなってきた。シャローナさんが言った通り、もうすぐ森から出られそうだ。
何があるんだろう?ワクワクするなぁ!
この先に待っている冒険に期待を膨らませながら、僕たちは森を抜けた。
すると…………。
「……うわぁ!」
「なっ!」
「嘘……!」
僕は、期待とは大きくかけ離れた光景に思わず悲鳴を上げてしまった。キッド船長とシャローナさんも、この光景に目を見開いている。それもその筈、僕たちが目にしたのは…………。
「……これって…………お墓…………?」
僕たちの前には、古く錆びついたお墓が立っていた。それも、一つだけじゃない。数え切れない程の墓が、丁寧に列を作って並んでいる。あまりにもおぞましい光景に、僕の足は竦んでしまった。
「……不気味だな…………この島に何が起きたんだ?」
「なんだろう……とても禍々しい気を感じるわ……」
キッド船長とシャローナさんも、驚きながら言った。
「……今日は散々ね……まさか、初めての上陸でこんな怖いものを見る羽目になるなんて……」
シャローナさんが苦笑いを浮かべて話しかけてきた。
僕も、まさかこんな光景を見てしまうなんて思ってもいなかった。僕はもう少し、まともな光景を想像してたのに……。
……って、あれ!?
「キ、キッド船長!?」
僕が肩を落としていると、キッド船長は墓に向かって歩き出した。
無数の墓を前にして、キッド船長は怖くないの!?
「ほら、もたもたしてると置いてくぞ!何時までも怖がってちゃ、進めないぞ!」
キッド船長は片手を振って僕たちに来る様に促した。
やっぱり、キッド船長は頼もしいなぁ……僕なんか、怖くて足が震えてるのに……。
「……しょうがない人ね」
シャローナさんは、半ば呆れながらもキッド船長の後を追った。
「
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