「……さて、どうする……?」
愛船、ブラック・モンスターの甲板にて、俺は片手で伸縮自在の小型望遠鏡を通して遠く離れた国の様子を覗いていた。今から俺たちは、あの国に上陸する……予定だった。
あの国の名はレスカティエ教国。教団の人間が治めている宗教国家であり、数多くの勇者を輩出してきた巨大国家でもある。その国は主神の教えを国教としている為、当然魔物を敵対視している国だ。
そんな国に俺の最愛の妻であり、シー・ビショップと言う人魚でもあるサフィアを始めとした多くの魔物たちを連れていくのには流石に躊躇った。だが、これからの旅に必要な物資をある程度集めなければならなかった。
レスカティエ教国に上陸する時は、なんとかして人気のない海岸に停泊し、仲間の魔物たちには上陸させないように決めていた。
だが、思わぬ事態が発生し、未だに上陸するか否か迷っている最中だった。
レスカティエ教国が堕落した。
この一報を聞いたのは一昨日の事だった。この船の副船長であり、俺の右腕的存在でもあるヘルムが、新聞を通してレスカティエ教国が侵略された事を知ったらしく、早急に俺に知らせてきた。
問題はその全貌だった。たった一人の魔物によって侵略された。そのあまりにも信じられない事実を聞かされた俺は耳を疑った。だが、その侵略の首謀者の名を聞いた途端、俺は信じられない事実に納得してしまった。
その首謀者の名は、デルエラ。
リリムと言う魔物の一人であり、彼女らは魔王の娘であるが故に桁外れの力を持っている恐るべき魔物だ。俺自身はデルエラとは一度も対面した事は無いが、俺の叔父さんの嫁であり、リリムでもあるアミナさんから、デルエラについては度々聞かされていた。
デルエラはアミナさんの姉であり、何でもアミナさんより強大な力を有していると聞いた。あくまで聞いた話だが、魔王の理想郷を実現する為に数多くの女性を魔物に変え続けている過激派な魔物だと聞いた。
デルエラが何故レスカティエ教国を侵略したか、詳しい事までは分からないが、今現在においてレスカティエ教国が異常な事態に晒されているのは確かだ。迂闊に足を踏み入れればどんな目に遭うか分からない。
レスカティエ教国の崩壊を聞いた一昨日から、どうするか行き詰ったものの、悩んでばかりで留まっている訳にもいかなかったが故に、とりあえずレスカティエ教国が見える所にまで来た。
望遠鏡で覗いても、ハッキリ見えるのは暗い闇に包まれた城だけで、他の住宅街や市場らしきものの様子は微かに見えるだけで、詳しい様子までは確認できなかった。
「ねぇ、お兄ちゃん。私にも見せて!」
俺の隣にいる妹的存在である子供のマーメイド、ピュラが両腕を俺に向かって伸ばして望遠鏡を欲しがってきた。
「あまり面白いものは見えないぞ?」
そう言いながらも、俺はピュラに望遠鏡を手渡した。ピュラは片目を瞑って望遠鏡を覗きこんでレスカティエ教国の様子を見た。
「キッド、何か見えましたか?」
ふと、俺の隣に立っているサフィアが声をかけてきた。
「いや、見えるのは望遠鏡無しでも確認できる城だけだ。他の所はほんの僅かに見えるだけで、人らしき人は見えない」
俺はありのままの現状を答えた。すると、俺の背後からヘルムが話しかけてきた。
「いっその事、レスカティエ教国には上陸せずに、多少の苦労は覚悟の上で次の国を目指して出航するって案もある。あまり利口な考えじゃないけど、無難な道はこれしかない。どうする?何時までもここに留まってる訳にもいかないよ?」
ヘルムの言う事は尤もだ。何時までもこんな海原で立ち往生してる場合じゃない。いい加減にどうするか決めないとな…………。
「……あ!お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
突然、ピュラが望遠鏡を覗いたまま俺を呼んだ。
「どうした、ピュラ?何か見えたか?」
「なんかね、お城から何か出てきた!」
……何か出た?城から?
俺は城を見てみたが、確認できるのは城だけで、それ以外のものはよく見えない。
「ピュラ、何が出たんだ?」
「えっと……なんか、翼が生えた女の人が……」
……翼の生えた女?もしかして、魔物か?
俺はピュラに詳しい事を聞こうとしたが……。
「ああ!お兄ちゃん、大変!こっちに向かって飛んでくる!」
「何!?」
ピュラの声に、俺は咄嗟に城の方へ視線を移した。すると、何かが物凄いスピードでこっちに向かって飛んでくるのが見えた。俺は目を細めて、跳んでくるものが何か見極める。
その姿は、ピュラが言った通り翼の生えた女だ。耳はエルフの様に長く尖っていて、髪は白銀に輝き、身体の至る所には赤い目の形をした宝石が飾られて……。
……まてよ……デルエラの特徴は確か赤い目……こっちに飛んでくる魔物の目も赤い……まさか!
「ハァイ♪海賊のみなさん♪ご機嫌
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