ルーンさんの【空間転移】により連れて来られた先は、古今東西の様々な調度品が所狭しと並べられており、煩雑さの中にも何処か調律の取れた非常に表現し難い独特な雰囲気を醸し出している部屋であった。
余りの整頓されていない状況に眩暈の様なものを感じつつもそこかしこに鎮座している調度品を眺めていると、捕まれている腕を引っ張られたので、それに従い付いて行った先には、何故かその一カ所だけ調度品が一切なく、ポッカリと空いた空間に、丸形の大きめなテーブルが有り、椅子に腰掛けながら優雅に茶をしているクスィーさんが居た。
そのまま椅子に座るように促されたので、素直に従うと、椅子に腰掛けた途端、何処からともなくティーセットと呼ばれるお茶の器具が空中を漂って僕の前まで移動してきて、お皿、カップ、スプーンの順に静かにお茶の準備を完了させた。
「ご苦労だったな」
労いの言葉と共にクスィーさんにお茶を煎れてもらったので、軽く会釈をして口を付ける。
う〜ん、大陸のお茶は嫌いじゃないが、香りが若干キツイので、やっぱり【ジパング】の方が好きだな。
「――じゃなくて、お二人共寛ぎ過ぎですよ」
「常に気を張っていると、疲れてしまうぞ」
「いや、まぁ、そうですけど……」
「それにじゃ、何かあったとしても、ワシ等には優秀な部下がおるので、大体は片付けてくれる。将というのは、イザという時以外はドーンと構えていて、下の者に余裕を見せてなければ駄目じゃ」
自分の分のお茶の器具を持って来て、既に寛ぎ状態になってしまっているルーンさんの言葉を受け、一理あると思った上に、何かを云ったとしてもこれ以上先に進まないと感じた僕は、大人しくお茶を楽しむ事にした。
「………………さて、それじゃ、依頼したモノをくれんかのぅ?」
時計の針の音すらせず、お茶の器具である陶磁器独特の乾いた音だけが響く静寂を破ったルーンさんの言葉を受け、漸く先に進める安堵と共に袖の中から、先の戦いで男を【密封】した水晶玉を取り出し、手渡した。
水晶玉を受け取ると、ルーンさんは、ふむふむ――っと空に翳したり、顔近付けたりして、頷きながら眺め、何かを確信したのか一度だけ大きく頷くと、視線を向けてきた。
「見事な術式じゃな」
水晶玉をクスィーさんへと投げ渡す。
「ここまで緻密で精度の高いモノだと、ワシでも解除するのは至難の業じゃが――」
僕の眼前を横切った水晶玉は、クスィーさんに親指で弾かれ上空へと跳ね上がった。
厭な予感がし、水晶玉を目で追っていると、スフィーさんが紅茶のカップを置くと同時に、座っている彼女の胸の高さに来た水晶玉を何かが高速で薙いだ。
「世の中には【力業】という素晴らしい言葉があるのでの、それを使わせてもらうわい」
何かに薙がれた水晶玉は一瞬だけ中空で不自然な停止をするも、直ぐに落下を開始して、テーブルにぶつかって2つに割れ、そのまま床へと落ちてしまった。
床に落ちた水晶玉から閃光が発せられたると同時に椅子から飛び上がるように腰を上げて、いつでも戦闘へ移れるよう鯉口を切った。
「そんなに構えなくても大丈夫じゃ」
光が収束し、漸く事態を確認できた僕は、ルーンさんが何故あんな気の抜けた事を言っていたのかを理解したので、柄を軽く押して刀を鞘へと納め、臨戦態勢を解除した。
「【魔術式拘束制御専用造糸(スペル・スパイダー・バインド)】――ワシが編み出した、対象の拘束のみを目的とした術式じゃ」
【名は体を表す】の言葉通り、蜘蛛の糸状の氣が【魔物】の強大な膂力を凌駕し、僕の【四肢捕縛陣】すらも純粋な力のみで破りかけたあの男を床の上に大の字に拘束し、抵抗らしい抵抗を行えぬよう、行動を制限していた。
流石【バフォメット】と云うべきか、独自の魔術を編み出すだけでなく、威力も並みの者を遥かに越えている。
「どうじゃ? 何の抵抗も出来んじゃろ? 本来ならば素直じゃない【使い魔】の教育用に開発したのじゃが、なかなかどうして他への転用も悪くないと思っての、こうして拘束用にも利用してるって所じゃ」
それじゃ、尋問を始めるかの――闇雲に手足を動く範囲で振り回す男に近寄った【バフォメット】は、徐に右手を持ち上げると掌が淡く光だし、それを男の頭へと叩き付けた。
途端、男の身体が一度だけ大きく跳ねたが、直ぐに静かになり、口から空気が漏れる様な声がするだけになった。
「ふむふむ……成る程、成る程………………ははぁ〜ん、そうなるのか……オッケー、オッケー……」
お疲れ様じゃ――一頻り頷き、何に納得したのか、大きく首を縦に振った直後、いつの間にか左手に注射器の様な物を持っており、それを男の胸に勢い良く突き刺した。
注射器から何かを注入された男は、目を見開き、口を裂けんばかりに大きく開き、思わず耳を塞いでしまう
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