序幕:世は全てこともなし

 一列に6つの机が並び、それが8つ――計48個の机には、濃紺のブレザーを着用した少年少女達が座り、様々な態度で50人弱が居ても狭苦しくない、それなりの広さを有する部屋に備えられている教壇の方へと顔を向けていた。
 但し、少年達に関しては基本的な身体の構造も外見的特徴も皆ヒトの範疇に収まっているのだが、少女達の中には、本来人間にある筈のない角や翼といった器官を備えているモノもいれば、液体の様な、到底ヒトの範疇に入るのか疑わしいモノもいる。
 だが、その事に疑問を持つモノは部屋の中には誰一人として存在しない様で、皆、各々の態度で教壇に立っている、成年期中盤である三十路に差し掛かったであろう、眼鏡にスーツ姿の柔らかな視線をした男の言葉を聞いていた。
「――して、君達が生まれるよりも前の今から約50年前に、世界各国の主要都市の一部の空間が突然組み替えられ、深い霧に覆われた《異界》が誕生したんだ」
 スーツ姿の男が左手に『世界史 近代編』と書かれた教科書を手にしている所から、ココは学舎であり、机に座っている少年少女――生徒達の教師である事が解る。男は背後に存在する黒板へと振り返り、空いている右手にチョークを握ると、文字を書き始めた。
「当初、ヒトはこの世界同時多発的に発生した現象に驚愕し、一部の国は自国内に存在するにも関わらず、《異界》へと武力攻撃を開始したが、当時最新鋭の兵器ですら、《異界》に到着する直前に何故か消失し、禁断の兵器と謂われていた核兵器ですら、無力化された」
 教師の男は、少年少女達にも解り易くするために、図形と文字を巧みに使いながら、重要となる言葉を黒板へと記載していく。
「兵器や武器を無力化するが、人間が触れても何の問題もなく通過できる特殊な力場に覆われた《異界》へ、各国は軍隊やそれに近しい組織を進行させた。けれども、何故か通信が途絶え、武装した組織を次々と送り込むも、徒労に終わり、これ以上の被害を出せぬと判断した国の1つ――我が国の当時の総理大臣は、《異界》に向けて、音波、電波、可視不可視光線等のありとあらゆる手段で呼びかけた所、何と返答が来た」
 男は小気味良い音を立てながら黒板に図形と文字を記載しながら、異なる色のチョークを手に持ち、強調させた。
「当時では信じ難い事であったが、彼らは異なる次元からやってきた存在であると返って来たんだ。向けられた攻撃を排除したのは、空間を変異させる際に、中に取り込んだ人達を護るためであり、進行して来た人間達も無事だと。そして、僕達人間に対して敵意はなく、国の代表と話がしたいから、武装を解除してくれとまで言ってきたんだ。しかも、各国の代表とその側近へと直接頭の中に響くような声でね。こんな事を言われたら、どの国も彼らの云う通り、武装を解除するしかないよね」
 自慢の最新鋭の兵器が全て無力化されちゃうんだからね――っと振り返りながら肩を竦めて苦笑した男につられ、少年少女達も頬を緩めた。
「その後は、君達も知っている通り、《異界》の長達と各国の代表達が話の場を設け、互いの意見を交換。続けて、舞台は国際社会へ広がり、最初こそ多少の混乱はあったけど、彼らは社会に認められ、長い年月をかけて溶け込み、今では魔物娘と呼ばれる、この世界の住人となったんだ。彼女達はその外見や美しさに目を奪われがちになるけど、本当にスゴイのは、身体能力や《魔術》と呼ばれる、超自然現象を扱える所なんだ」
 男が黒板から離れ、教卓に手をついた。男の態度から、今回の授業はこれ以上書く事はなく、ココから先は彼の個人的な話になる事を理解し生徒達は、板書された内容をノートに書き記したり、魔物娘の一部は魔術的な記憶法を用いて、板書内容を覚えていく。黒板に書かれている内容を各々の方法で記憶に留めたモノから、教師が板書していた時よりも真面目な態度で聴き始めた。
 教卓にいるため、生徒達の変化を一番感じ取れる男は、心の中でだけ苦笑し、話を続けた。
「魔物娘達の身体能力は本当にスゴイものでね、今では体育の授業を分けて行うのが当たり前だけど、共に学ぶ様になった当初は混同でやっちゃって、本当に大変な事になったって聞いたくらいだよ。一般的な陸上競技をさせれば、魔物娘の中では力が弱いといわれている娘ですら、人間が打ち立てた世界記録を余裕で上回り、対抗する競技をすれば、魔物娘が多い方が勝つのが基本。《魔術》に優れた娘の一部は、《魔術》を使い出したりもしちゃって、もう評価云々以前の状態になっちゃったらしいね」
 整備を間に合わせずに実行しちゃった弊害だね――っと肩を竦めた男に合わせて、生徒達も軽く頷く。
「彼女達がこっちの世界に現れてから、およそ50年程経ち、未だ調整が上手くできていない所は多々あるけど、お互いの知識や技術を共有して、世界をより豊かで
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