あれからどれ程の時が経ったんだろうか……。
空には白がさし、止め処なく一方的に与えられる暴力に、俺の神経は磨り減り、最早何かをされているという感覚しか頭に届いて来なくなっていた所、突然、身体に掛かって来る圧がなくなった。
右手の拘束もなくなっていたので、身体を横にし、力の入らぬ震える右手でゆっくりと上体を起こす。
呼吸が苦しく、喉に何かが詰まっている感じがしたので、咳込み、吐き出すと、何とも表現の難しい酸っぱさと共に地面に黄色とも茶色とも取れる溶解した固形物が出て来た。
間断なく与えられる激痛に、内臓が痙攣を起こし、胃の中の内奥物が逆流したが、それでも止む事なく与えられる暴力で、喉が引きつけを起こして、詰まってしまっていたのか……ヲイヲイ、俺、命がかなりヤバイ状態だったんじゃねぇかよ……。
上体を回し、痺れる頭と定まらぬ視界で周囲を確認すると、背面に振り返った所で、ヤツが――白き死神が、相も変わらず、その出鱈目に整った怖気を覚える美顔に笑みを浮かべ、俺を見下ろしていたので、視線が合った。
雪のように白く、絹のようにきめ細かな肌には、男の骨を砕き、《治癒魔術》での修復を休まず数時間単位で行っていたにも関わらず、汗一つかいていない。
こっちは外套にまで滲み出る程の脂汗をかいているし、いつ終わるとも解らない一方的な破壊行動に体力だけでなく、精神も一緒に消耗しちまってるっつうのに、何なんだよ、コイツは、ホントに……。
肩を軽く蹴り押され、何の抵抗も出来ずに、背中から倒れ込むと、ヤツは俺の身体を跨ぎ、顔を覗き込んで来た。
「――さぁ、アナタの答えを聞かせてください、ジェス」
しかも、俺が気を取り戻して最初に掛ける声がそれかよ、クソが。
……いいぜ。
テメェがその気なら、俺にだって意地がある。
ワリィが、この生命、俺は元からテメェを殺す事に使ってやる予定だったからな。
今更惜しくもなんともねぇぜ。
もう力が入らず、倒れ込み、一呼吸置いて覚悟を決め、右腕を動かそうとした所で、地面から骨だけの手が出現して掴まれてしまった。
「なっ?!」
させませんよ――っと白き死神が、悪さをしようとした子供を窘める様に、生暖かい笑みを向けて来た。
「妻であるわたしが、夫の考えが解らないと思っているのですか? 大方、心の臓を《贄》とした《犠牲魔術》の最大魔術を放とうとしたのでしょうが、甘いです」
「何を云っているのか、俺には全然解らねぇな。解らねぇから、この右手を自由にしてくれねぇか?」
ダメです――っとヤツが右の手首を返すと、地面から幾つもの骨の手が現れ、俺の身体を固定しやがった。
「ふふっ……ふふふっ……動けますか? 動けませんよね? コレでは逃げれませんし、《犠牲魔術》の施行もままなりませんね? どうします? どう対抗しますか? ジェス」
「どうもしねぇよ。俺は俺がヤルべき事をするだけだ」
「そうです。アナタがするべき事は、わたしを――」
殺す事だ――っとヤツの言葉を遮り、俺は事前に身体に仕込んでおいた《犠牲魔術》を発動させる。
鳩尾を中心に肋骨が左右に《開き》、身体を展開させると、そのまま骨は延び、俺を跨いで見下ろしているヤツを左右から挟み込む。
死ぬ程の激痛によって、脳が麻痺しちまったのか、痛みなんか、もう感じねぇ。
完璧に虚を突いた一撃。
ヤツも驚きに目を見開――んっ?! 笑って、いやがる……?
だが、今更魔術を中止するなんて事は出来ねぇ。俺は身体に残っている全魔力を使用して、肋骨から生成した牙でヤツを左右から挟んで砕く。
直撃すりゃ〜、前魔王時代のバフォメットやリッチの様な魔術に長けた上級の魔物すらも、その身に纏っている《結界》ごと圧し潰し、《贄》として消化できる魔術だ。
喜べよ、死神。
俺が《犠牲魔術》で人間を《贄》とする、最初で最後の一撃だ。
この一撃で死神をくだ――。
「その程度で、わたしを圧し殺せるとお思いですか?」
視界が揺れ、鼓膜が震える程の衝撃が走り、俺の両サイドからの一撃をその華奢な細腕で軽々と受け止められてしまった。
更に魔力を流し込み、両サイドからの圧を強力にするが、骨で形成した牙は、ヤツが両側に伸ばした手以上に進む事ができず、俺は奥歯を噛み締め、眉間に皺が寄る。
クソッ……こっちは全力で殺そうとしてるのに、随分と涼しい顔をしてくれるぜ。
「自分の全力が尽く無力化されて、悔しいですか? ――そもそも、わたしはアナタの妻なんですよ? 夫の全てを知っているのは当たり前。ならば、アナタの全力がどの程度で、アナタがどの様な魔術を使え、如何なる状況になると、どの対応をするのか――全て解っていなくては、可笑しいじゃないですか」
知るかよ、んなもん。
俺はテメェと婚
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