第九話:武闘大会【決勝戦】

 未だ姿を見せてもいないのに、【コロッセオ】内の観客は既に昂っており、石造りの通路内に控えているココ迄歓声が響いて来る。
 深呼吸を何度かして気持ちを落ち着かせ、身体の強張りをほぐすが、どうにも上手くいかない。
 人前で刀を振るうのには御前試合で慣れているが、人数が違い過ぎるのと、相手があの【始原の魔法使い】の1人であるせいで、否が応でも気持ちが昂ってしまう。
 【始原の魔法使い】は、人の身でありながら、【魔術】に対する技量は、上級の【魔物】に匹敵し、【魔法】の域に迄到達してしまった者達、っと御前様がお話しされていたのを覚えている。
 その上、あの【金氣のアイゼン】は剣の扱いにも長けているため、1人の武士としても楽しみである相手だ。
 手甲を嵌めている両手を何度か握り、身体の調子を確認する。
 ふと、斜め左後ろに気配を感じ、顔を向けずに声だけを掛ける。
「……どうしたんだい? 揚羽」
「一磨様、もしお許しを頂けるのなら、共に宜しいでしょうか?」
「うん? 揚羽は常に僕と共にある。今更だよ」
「いえ、そうではなく、このままの姿で共にありたいのです」
「……顕現した状態でかい?」
 はい――っとハッキリとした意思を含んで応えられた。
 確かに、昨夜の交わりの際に、揚羽に【門】を作り、僕が【アゲハ】を励起せずとも、顕現出来る様にしたから、自由に顕現と解除を出来る様になったけど、顕現している間は常に【氣】を消耗するし、【氣】の消耗が激しくなれば身体の維持が出来なくなってしまうのに、どうしたのだろうか?
 肩越しに揚羽を確認すると、【ゴースト】であるため、儚げではあるが、生前のままの凛々しさを携えており、僕から何を云われ様とも、自分の意思を曲げない強さをその瞳に宿していたるため、深呼吸を1つして顔を前に戻した。
「……解ったよ。僕に付いて来て。タダ僕が合図を送るまでは姿を隠していてね」
「っ! ありがとうございます」
 僕の半歩後ろに近寄ると、その場で立ち止まり、幻術にて姿を隠しながら静かに佇む。
「コレより、ブリュンヒルデ武闘大会、決勝戦を開始するのじゃ! 両選手は、闘技場に入場するのじゃ!」
 暫く2人で静かに待っていると、【魔術】による拡声で独特の響きをもった声が聞こえたため、ゆっくりと歩みを進める。
 【ゴースト】であるため、揚羽からの足音は聞こえないが、気配でちゃんと付いて来ているのは解るので、振り返らず、そのまま石造りの通路を抜ける。
 薄暗い通路から眩しい日差しの下に出たため、一瞬視界が奪われるが、耳だけでなく、身体全体に迄響く程の大歓声に思わず歩みを止めてしまう。
 視線だけを動かして観客席を確認するが、人が座っていない席は見当たらず、通路に迄ハミ出した人々が居る程で、中には【コロッセオ】の外壁に座って望遠の【魔術】か何かでこちらを【視ている】人も居る程だ。
 先日の本戦で使われていた石造りの円形の巨大な闘技場の上に立ち、ゆっくりと中央付近に近付く。
 僕と相対する側からは、見覚えのある黒外套を翻し、【始原の魔法使い】が同じくこちらに歩みを進めていた。
 視線が合わさり、互いに口元に笑みを浮かべる。
 相手と6間程の距離で立ち止まり、相手を見据える。
「西の門より入場したは、【魔術】を修める者ならば、決して知らぬ者がいないと云われる、【始原の魔法使い】が1人、【金氣のアイゼン】こと、アイゼン=グスタフ!!!」
 地を揺るがす程の歓声と共にシルクハットのつばを手に軽く持ち上げて観客に応えるアイゼン。
「対する東の門より入場したは、遙か東国――【ジパング】の騎士である【武士】が1人、数多の強者を1刀の下に打ち倒してきた、新城 兵頭 一磨!!!」
 最早声として認識出来ぬ程の歓声に応えるべく、刀をゆっくりと引き抜き、天へと大きく掲げ、細く吐き出す息と共に納刀する。
 波が引く様に歓声が収まり、何事であるかと思い、観客の視線の先へと顔を向けると、テラス状の貴賓席の奥から、右手側にクスィーさん、左手側にルーンさんを従え、獅子を模した金の刺繍が特徴の身頃のみの外套を羽織った、ブリュンヒルデ国王が姿を見せていた。
 祭り事がある場合、多種多様な国の人や【魔物】が訪れ、通常よりも警備を強化していても、良からぬ事を企てる輩が入国する危険が高くなるため、国王程の方がこの様な衆人観衆の前に姿を見せるのは、余り感心出来ぬと思っていたが、あの2人と剣を交え、言葉を交わした今なら解る。
 国王陛下は奥方の部下であるあの2人に全幅の信頼をおき、あの2人もそれに応えるべく、イザとなればその身すら喜んで差し出すからだろう。
 タダ、本気で国王陛下の命を狙ったとしても、奥方がリリム種であり、【デュラハン】と【バフォメット】の【魔物】の中でも上位の存在を相手
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