「―――よいしょっとっ。…それにしてもこの荷物の量はすごいな。」
ここは旅人の定宿。外では日がサンサンと降り注いでいる中、オーウェンは汗だくになりながら宿屋の一室へと大量の荷物を運びこんでいた。
「まったく、少しはミラも手伝ってくれよぉ。これ全部ミラのもんだろ?」
「ちょっとは手伝っておるぞ。だって仕方ないだろう?昼間のヴァンパイアは力が出んのだから。」
現在オーウェンとミラは屋敷から届いたミラの荷物を新しく決まった彼女の部屋へ運び込んでいた。宿屋は三階建てになっていて、一階の管理室がレーナ、101号室がオーウェンの部屋となっている。そして今回ミラには102号室があてがわれたわけだ。運び込むのが一階なのがせめてもの救いだ。
「オーウェン、何を言ってらっしゃるの。あなたが責任を持つと言ったんでしょう?ならもっと頑張りなさい。」
涼しい顔をしてレーナが言う。文句の一つでも言いたいが、先に部屋の掃除をしておいてくれたのは彼女なのでそれもできない。
なんとか荷物を運び終えると、レーナがカウンターにアイスティーを入れて置いてくれたのでミラと一緒に休憩することにする。カフェはカウンターと小さなテーブルがあるが、カウンターは空いている事が多いのでよくここに座らしてもらっているのだ。
「そうそう、また依頼が来ていましたよ。これは…ヘルメスさんの所からですね。丁度良いからついでにこの前お願いした薬も受け取ってきてくださいな。」
アイスティーを飲んで今後の話をミラとしているとレーナが依頼の紙を持ってきてくれた。依頼は基本的に宿屋にあるポストに投函されていて、それを見て実際に依頼主の所まで行って詳しい内容を聞くのが大体の決まりとなっている。今回はどうやらヘルメスの所から来ていたようだ。
「え?またあそこに行くの?それはちょっと…。」
オーウェンはそう言って言葉を渋る。
「他に仕事も無いんでしょう?暇しているなら行ってきなさいな。それともヒモとして生きるのかしら?」
「ぐっ…わかりました、行ってきます…。」
まったくここまで言われると言い返す言葉も出ない。オーウェンは一生尻に敷かれそうな気がして少々寒気がした。
「どうしたのだ?何かまずいことでもあるのか?」
「いや、まぁ大したことじゃないんだけどね…。」
ミラはまったく意味がわからないといった様子で聞いてみるが、適当に流されてしまった。
「そうだ、ミラはどうする?このままここでレーナの手伝いをしてもらってもいいんだけど。」
「吾もその運び屋という仕事がどんなものか興味があったのだ。だからついて行くことにする。」
本当はちょっぴり不安もあったのだが好奇心の方が勝り、ミラはついて行くことにした。
(オーウェンと一緒に居る時間も増えたりするかもっ…。)
なんてヤマしいことは決して考えてなどいない。決まっておろう。
「では、お二人ともお願いしますね。」
二人はレーナに挨拶を済ませると宿屋を出て依頼先の薬屋に向かった。
薬屋は出た角を曲がって真っ直ぐ進んだ所にあって、青を基調とした爽やかなデザインが特徴の小さな店だった。
「おかえり〜オ〜ウェン♪」
扉から薬屋の店内に入ろうとした途端、赤い色をした水っぽい透き通った体をした少女がオーウェンに抱きつこうとしてきた。しかしその抱擁をオーウェンは慣れた動きでサッとかわした。
「あ〜、もうなんでかわすのよぅ。」
その少女は頬をぷぅっと膨らまして文句を言う。
「やっぱりベスか…。なんでかって、お前が毎度毎度そうやってくるからだ!」
このベスという少女はレッドスライムという魔物で、ここで薬屋をやっているヘルメスという変わり者に拾われ、今はここに居候しているようだ。それ以上はオーウェンも知らない。
「でも、妻は旦那様を出迎えるものでしょ?」
「俺はいつからお前の旦那になったんだよ!」
彼女は言葉で言い表すなら一目見ただけでこっちにまで伝わってくるような元気さととても可愛らしい顔立ちを持っている、まるでヒマワリのような娘だ。オーウェンは何故か初対面で懐かれてしまったらしく、性格が物怖じせず積極的なせいあってか彼にとっては少し苦手なタイプであるようだ。
「で、この子は誰なの?」
不意にベスの注目が自分へ向かって来たのでミラは少し焦る。
「こいつはついこの間から俺の宿屋に一緒に住むことになったんだ。」
「ミラだ、これからよろしく頼む。」
「こちらこそよろしくねっ………」
「な、なんだ」
ベスがいきなり黙りこんで眺め始めたのでミラが戸惑う。
「ちょっと美人さんだけど、だからって負けないからねっ!」
と、まるでこれから勝負をするかのようにベスがミラへ言った。
「こんにちは、
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