第四便 無邪気な吸血鬼(4)

 出かけ際に何か死の予感のような怖気のような危ないものを背中に感じた気がしたが気にせず出発し、丁度真夜中近くなる頃屋敷に到着した二人はすぐに例の大広間へと通された。広間に着くとさっそく奥から例の二人が現れた。

「おぉ、良かった!無事に戻ってきたんだねぇ!マイ・スウィート・ドータァー!!」

 開口一番に娘に抱きつこうとするジョセフにミラは慣れた手つきで見事なカウンターを的確に鳩尾にかまし、近くに打ち捨てた。哀れ。

「お主、良くぞ無事に届けてくれたな。礼を言うぞ。」

 マーラの方も晴れやかな笑みでお礼の言葉を述べた。ちなみにやっぱり旦那はスルーだ。

「さて依頼の報酬の件だが、」
「そのことでお話がございます。」オーウェンは、何か異変を感じて身構えたマーラに向かって力強く言った。
「実は……私とミラは夫婦となりました。」
「………!?、なん…だと…。」

 あまりの驚愕の事実に、マーラは思わず目を見開いた。娘が昨日家出したと思ったらその次の日には今度は夫を連れてきたと言うんだからしょうがない。

「夫を貰ったら一人前のヴァンパイアとして認められ、自由に行動しても良いんですよね?お母様。」ミラが確認するように言った。この家ではそういう決まりがあるらしい。

しかしここでマーラは二人の決定的なミスに気付き、

(ふふふ、まだまだ青いのう。)

 と心の中でほくそ笑んだ。

「もし夫婦ならば契りは交わしたのか?見ればお主の首には咬み跡すらないではないか。それも無いのに夫婦とは呼べんぞ。」

 おいっそうなのか、そんなことまで吾が知るわけなかろう、とひそひそと話し合う声が聞こえる。

「大方、ミラが外界に出たいがためにお主に無理に頼んだのであろう。悪いことは言わん、正直に話してみてはどうだ?」

「ミラ、どうする?完全にばれてんぞ。ここはおとなしく話してもいいんじゃないか?」

 オーウェンは向こうに聞こえないくらいの声でひそひそと話す。

「それは…嫌だ…。ここで引き下がったら当分の間外の世界へ行けなくなってしまうのだ…しかしどうすれば……。」

 彼女は、その唯一の作戦が失敗に終わりとても落ち込んでいた。

(さっきまであんなに強気になっていたくせに……なんだよ、そんな顔しやがって…。)

 その表情を見ると何だか無性に胸の辺りがズキズキしてきた。そんな時、昼間のレストランでの会話の時に見せたキラキラした彼女の笑顔が浮かんでくる。

「…確かに館主様の言うとおり、この話は完全に偽りです。」

 オーウェンは意を決したように言う。

「なっ!?オーウェン、貴様何をっ!」

 突然オーウェンが作戦をバラし始めたのでミラが焦る。しかしそのミラの言葉を遮って続ける。

「ですが…私から言うのも何ですが、彼女には外のもっと広い世界を見せてあげても良いと思います!」

「お主…自分の言っている意味がわかっておるのか…?」

 マーラは前に見せた威圧感よりも迫力のある恐ろしいオーラをオーウェンに向けて叩きつけて来る。

「よ、止せオーウェン!ここで母上を怒らせたら貴様の身がどうなるか…。」

(ここで怯んじゃ駄目だ…。)

 しかしその言葉を無視して彼は立ち向かうように両足にぐっと力を入れると言った。

「彼女は、世界を知ってみたいと言っていました。確かに外の世界は様々な危険が常に纏わりついています。しかしそんな中でも稀に見つける出会いや発見は人生に素晴らしい物を与えてくれると私は思います。なのでどうか彼女の我儘をお聞き入れになっては頂けないでしょうか。その代わり、彼女が外に出た時は僕が全力で彼女の事をお守りします!」
「お願いします、母上!もうこれ以上何も知らないまま屋敷に籠っての生活は嫌なのです。立派なヴァンパイアになるためにも、どうか!」

 続いてミラも一緒に強く懇願し、両者はしばらくにらみ合い続ける。空気がピリピリとして今にも爆発しそうになっている。
 すると、マーラは突然ふふっと笑って分厚い札束のようなものを取りだすと言った。

「ついさっき屋敷に大量の請求書が届いてな。これはお前が買ったものなのだろう?良くもまぁこんなに使ったもんだ。…罰として外でこの金額分を全部稼いで来い。それまではこの屋敷に帰ってくるな。」
「それじゃあ…もしかして…。」
「フ…、その熱意に私も負けたよ…お前達の勝ちだ。ミラよ、そこの男に感謝するんだな。前からここだけで生活させることを疑問には思っていたのだが…どうやら長い間屋敷に籠っていたせいで感覚が狂っていたのかもしれない。まぁ認めなくてもまた勝手に出て行ってしまうだろうし、行ってきなさい。」

 マーラは急に笑い出した後、表情を緩めて言った。

「「ありがとうございます!」」

 二人はそれぞれお礼を
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33