「あ〜、それにしても今日は楽しかったなぁ。」
「俺は楽しいどころか冷や汗しかかかなかったよ。もうやめてくれよな?ああいう事は。」
学校での騒動の後、授業が終わったレンは水筒もといヒナと傍から見れば不思議な会話をしながら、家までの道を自転車で進んでいた。
「あれは、ごめんね。ちょっと悪ふざけが過ぎちゃったかも。」
声のトーンが少しばかり下がっていることからも反省はしているようだ。むしろあんなことを何度もやられてはこちらの身が持ちそうにない。
「まぁ、次回からは気をつけてくれればいいさ。――おっと、アパートに着いた。」
話している間にもう着いてしまったようだ。自転車の籠に入れていた鞄を取り出そうと思っていると、
「あら?意外に早いのね。お帰りなさい。」
「あっ、リアさん、どうも。今日は授業が少なかったもので。こんな時間にどうしたんですか?」
アパート脇に自転車を停めたところで、丁度出て行くところなのか階段を下りてきたリアがこちらに向かって歩いてきた。彼女は近くの喫茶店で働いているらしいのだが、普段は朝から働いているというのでこんな時間に会うのは珍しい。
「ええ、今日は休みだったんだけど、いつも働いているところのカフェでバイトしていた子が風邪引いちゃったみたいで急にね。早く良くなるといいんだけど。」
「確かここの路地を曲がって少し先に入った所にある`Petunia`ですよね?店員が少ないんじゃ大変じゃないですか?」
「そうそう。店員は今あたしとマスターしかいないから忙しい時どうにも手が回らなくって…うーん…。」
彼女はそう言うと、レンを品定めするように上から下へじ〜っと見つめて、
「そうだあなたまだバイト決まっていないって言ってたわよね?どうせここの事情も知っていることだし、もし良かったらうちで働いてみない?」
「確かに決まってないですけど。良いんですか、僕なんかが働いても?」
リアからPetuniaは昼間はカフェ、夜はバーになると聞いていたので、20になったばかりの若造が働けるのかと心配になり、ちょっと聞いてみる。
「大丈夫、大丈夫っ。話した感じ礼儀正しそうだし、うちでは重要なのは如何に臨機応変な対応ができるかだから寧ろあなたなら大歓迎よ?」
臨機応変な対応という部分で大歓迎というのが少し引っかかるが、店員が少なくて忙しいと聞いては黙っていられない。レンは二つ返事でこの話を受ける事にした。
「それじゃ、OKね。今日仕事が終わったら授業の予定を教えて頂戴。シフトを組まなくちゃいけないし。――それから、ヒナちゃんを外に連れ出すのは良いけど見つからないように注意しなくちゃダメよ?」
「やっぱり見つかっちゃってみたいだね。」
「バ、バレてましたか…。すみません。聞こうか迷ってたんですが…。気をつけます。」
やはり同じ魔物なのか先ほどまで息を潜めていたのに見つかっていたようだ。黙っていた事が見つかり、少々ばつが悪くなる。
「じゃないと記憶の操作が面倒になっちゃうからね。最悪あなたのも…。これはよく考えておいてね?」
と、言って彼女は小さな鞄を片手にコツコツとヒールを響かせて仕事先へと向かって言った。
――翌日――
「いらっしゃい。今日からよろしくね、レン君。――マスターこの子が昨日話したレン君よ。」
丁度次の日の授業は午後からなかったため、早速レンはPetuniaに初のバイトをしに行くことになった。店は閑静な住宅の間に挟まる様にちょこんと建っているのだが、外見はレンガ造りだが特に重苦しい雰囲気はなく、寧ろ落ち着いた雰囲気が思わず立ち寄ってみたいと思わせる様相をしている。正面には筆記体でおしゃれに`Petunia`と書いており、ドアを開けるとコーヒーの香りがふんわりとして鼻に心地よく届いた。
「もう、マスターはやめて欲しいわ?――君が例の`事情を知ってる少年`ね?私はマスターの葵って言うの。これからよろしく頼むわね。」
と、マスターと言われた`男`は自己紹介をした。どうやらこの人も魔物の事を知っているらしい。お客の席から影になるカウンターの横の方に案内されると、笑顔でにこりと微笑まれた。
「は、はい、これからよろしく頼みます。」
「なんだかイイ子そうじゃない?ウエイター服が似合いそうねぇ。」
「そうでしょう?きっとぴったりだと思うわ。」
と、リアは手を前に合わせてにっこりと笑って見せた。
「そしたらこれが仕事着だから、こっちの準備室で着替えてね。」
渡されるままに指定された部屋へ行こうとすると、
「後、いるんでしょう?ヒナちゃん。あなたにもあるから向こうで着替えてきてね?」
と、リアが突拍子もない事を言ってきた。人間に化けているらしいリアはともか
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