洞窟特有のカビ臭いにおいが鼻をくすぐる中、男は一人ゆっくりと目を覚ました。
「……んあ、ここは……どこなんだ…?」
辺りを見回すと、壁にかかっている松明の明りで辛うじて石壁で包まれた部屋にいることが分かる。さらに観察してみると、どうやら部屋の最奥の方に人が佇んでいるようだ。
「おお、起きたか。待っておったのだぞ。」
不意にそこに居た女に話しかけられる。頭には羊のような角が生え、腰の辺りには悪魔の翼としっぽが生えている。恐らくサキュバス族なのだろう。雰囲気だけでそのものが強い魔力を持った魔物であることがすぐにわかった。
「ちぃ…!」
誰かが判別できた刹那、腰に差している刀を引き抜こうとするが、
「ふふっ、武器はこっちだ。暴れられては困るからなぁ。」
そこにあるはずの相棒は目の前の彼女の手の中に収まっていた。これでは攻撃もままならない。
「MPも切れているようだしお前は何もできんよ。おとなしく言う事を聞くんだな。」
「ふざけるなっ!誰が魔物の言う事など聞くもんか!」
そう、このオレは数刻前にコイツに敗れたのだった……。
現在、この世界では魔王軍と人間の教団との戦争が行われていて、その状況は激化状態にあり、沢山の冒険者や勇者が魔物軍の征伐のため冒険へと向かっていた。それはオレ達も例外ではなく、この洞窟へも幹部が居るとの情報で訪れていた。最初の方の階層は弱い敵ばかりで楽々と進んで行けたのだが、いざ最下層のボスとあたってみると現在のレベルでは到底かなわない強さで逆に返り討ちにあってしまい、最後には全滅したはずだったのだ。はずだったのだが…。
「なんでまだここに自分が居るんだ、という顔をしているな。」
「くっ…!」
普通は死んだら町や王様の前に戻っていつものセリフ聞くのがセオリーだから、いまだにボス部屋に居るのは当然おかしい。
「当然死んだら向こうに転送されるのだろうが、私が呪文でお前だけ生き返らせたのだ。今頃はお前の仲間だけ向こうに着いてるだろうな。」
彼女は刀を持ったまま腕を大きな胸の下で組み、こっちを見つめて言った。
「なんだとっ!なんでわざわざそんな面倒な事を!」
魔物は人間を殺すのが普通と聞いてきたのでそんな突拍子もない事に驚く。まさか生き返らせておいて無抵抗なまま殺すのを楽しもうとでもいうのか…?
「いやぁ、こうして改めて話すのもなんかアレなんだが…。お前、私のものになる気はないか?」
「…………は?」
「さっき戦っている時にお前の事を偉く気に入ってしまってなぁ。このまま返すのももったいないと思い、こうして蘇生したのだ。と、言う訳で私の物になれ。」
彼女は不敵な笑みを崩さずにそう告げた。
「…い、いや、何がと言う訳でだ!理由になってないぞ!そんなの断るに決まってる!」
「ちなみに拒否権はない。」
「ふざけるな!とにかくオレはここを出ていく。」
後方には先ほど確認したこの部屋唯一の扉がある。そこからならば逃走できるはずだ。
「 しかし ボスからは 逃げられない 」
「自分で言うな!畜生っ、回りこまれたか…こうなったらっ!」
このまま彼女と言い合っていても堂々巡りになりそうな気がしたので、咄嗟に懐に入れていたMP回復のポーションを飲み干す。
「…?それはまさか回復薬……!」
そんなものまで持っているとは気付かなかったのか、彼女が急に慌て始める。
「そうさ!これで回復したし転移呪文で脱出させてもらうよ。刀は惜しいけどここで失礼させて貰うぜ。あばよ!」
そう言うや否や、呪文を詠唱する。体が光に包まれ意識が薄れていく感覚がしてきた。これでこの変な女からも逃げられるだろう。
「待てっ!!」
彼女が慌てて止めようとするがもう間に合わない。これでオレもようやく地上に…
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|いしのなかにいる!|
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戻れなかった。
ザクッザクッという音の中、再び目を覚ますとそこにはまた先ほどの女の姿があった。
「ふぃ〜、まったく…あそこは呪文をある程度妨害する魔法がかかっているから転移してはいけないと忠告しようとしたのに聞かずに転移するとは…お前はバカか。」
彼女は額の汗を拭うと手に持ったつるはしを置いて、土で汚れた顔でちょっと怒ったように言った。どうやらオレは迷宮の壁の中に埋まってしまったらしい。
「まぁこうしてすぐに掘り出せたから良かったものを…。下手すれば灰どころでは済まなかったんだぞっ。」
誰のせいでこうなったんだと文句も言ってやりたかったが、さすがにまだ体が半分埋まったままではどうすることもできず、ここはおとなしく
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