あれからどれだけの時が経ったのだろう…まだ少ししか経ってないようにも感じるし、もう朝方になっているような気もする。目の前の炬燵の上には依然として`悪魔の液体
`がなみなみと入ったコップが置かれていて、水面が時折ゆらゆらと揺れている。もうコイツを二度と口にするつもりはない。したくない。
すると突然炬燵の向かいの方で大声でリアと言い合いをしていた秋桜が、
「なぁ、やっぱりうどんだよなっ!」
「……はい?」
「ほら、こいつもそうだって言ってるじゃん!だ・か・ら、最後はやっぱりうどんだって!この俺が言うんだから絶対そうに決まってる。食べやすいしあったまりやすいし美
味しいしっ!」
「なっ、勝手にレンさんを味方に引き入れないでよ。それだったら雑炊だって同じじゃないっ。鍋の定番だったらこっちの方がポピュラーよ!――レンさんだってそう思うわ
よね?」
…どうやら鍋のシメをどちらにするかで揉めているようだ。今の俺にとっては至極どうでも良いことなのだが二人の気迫がそうさせない。
「え…えと…そ、そうですねぇ……そう思いm」
不意に視線に気づきハッとして秋桜の方を見ると、質問の返事を述べていくに伴ってこちらを睨む目線がどんどん鋭くなっていく。
「い、いやぁ…実はそうでもないか、なぁ…?…うどん好きかも…ハハハ…ハハ…」
「……では仕方ないですから両方を少しずつ出しましょう。それなら両方楽しめるでしょう?」
すると見かねたのか、大家さんが助け船を出してくれた。
「でも…」「それじゃあ…」
「良・い・で・す・ね?」
大家さんの飛びきりの、しかし有無を言わさない黒い笑顔で言われたせいか、二人はそのまま押し黙ってしまった。ありがとう、大家さん…本当にありがとう…。
「じゃあさっそく頂きましょう!良いですねぇ、皆で囲む鍋。実にイイッ!!」
と、横から男が唐突に感涙しながら熱を籠めて言った。………………?………`男`?
「あ、あなた誰ですか!?」
隣には初めて見る男がさも当然のように輪の中に入っていた。手には箸ととんすいを持って。
「?おおっと、これは申し遅れました。わたくし、204号室の音霧と申します。どうぞお見知りおきを。」
そういえば前に隣の表札を見たときにそう書いてあったような気がするが、まさか自分以外にも男の人がいるとは思わなかった。
「そういやまだ紹介してなかったわね。彼もこのアパートの住人で、さっき来たところなのよ。」
と、リアが丁寧に説明してくれる。仕事帰りなのかどうか知らないが、ワイシャツ姿できっちりとした服装をしていていかにもサラリーマン風な雰囲気をしている彼は、し
かしそんなことはお構いなしに大家さんが鍋に入れているうどんを一心に見つめている。
「そうなんですか…。――藤堂です。こちらこそよろしくお願いします。」
「よろしく藤堂くん!何故か君とは同じにおいを感じるよ。学生さんだってね、まぁ頑張りなさい。」
音霧さんは返事を適当にするとまたグツグツいっている鍋へ視線を戻す。どうやらこのアパートには変わった人が多いらしい。
同じにおいというセリフもとっても気にかかるが、それよりもさっきからヒナがどこにも見当たらない。トイレにでも行ったのだろうか。
「レ〜ン〜くんっ!」
「おわっ!びっくりした、ヒナか…。」
突然目の前に現れた彼女はひどく酔っぱらっているのか、いつもぱっちりと開いた両目はてろんとしていて半透明なはずの肌もぽっと桜色に染まり、とても扇情的な様子を
していた。
「レンくんさっきは大丈夫だった?秋桜さんにたくさん飲まされてたけど…。」
と、彼女は心配そうに至って真面目に聞いてくる。
「え…と、まぁなんとか生きてるよ。てか…ちょ、近いってっ。」
しかしその真面目な言葉とは裏腹に両の手をレンの頬にあてて、鼻先がくっつくくらいの近さで話してくるから気が気でない。レンは恥ずかしさに体を後ろに引きながら答
えた。
「そっかぁ、良かった!途中フラフラしてたから心配だったんだっ。」
「あぁ、ありがとうな。それよりもヒナの方こそ大丈夫かよっ。めっちゃ酔ってるみたいだけど、どんだけ飲んだんだ?」
レンは話しながら、なおもヒナの透き通った手から逃げようとするが、がっちりと掴まれて逃れることはできない。
「心配してくれるの?ありがとう、でも大丈夫だよぅ。あたしまだ全然酔ってないからぁ。量も少ししか飲んでないしぃ。」
「酔ってるやつは皆そう言うの!とりあえず水かなんかでも飲みなって!」
とレンは言うと、外野がヒューヒューッと冷やかしと好奇の目で見つめはやし立てる中、彼女にやかんに入った水を飲ませて隣に座らせる。
「まったく…フラフ
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