まだ冬の寒さが残る三月、都心の住宅が所狭しと並んだ中に埋もれていた一件のマンションの前に、たった今不安と希望に満ちた一人の青年、藤堂蓮がたどり着いた。
「地図によるとここなんだけど…本当にここに住むのかよ。」
確かにマンションと言うには余りにも質素でアパートと言って差し支えないほどの大きさだった。
まぁこの手の話はよくあることでここではあまり関係ない。それよりも目を引いたのは建物にところどころ見られる場違いな装飾だった。
建物は三階建てで横に長く形自体は普通なのだが、何やらゲームに出て来るガーゴイルか悪魔のような形をした置物が付いている正面玄関に始まり、ベランダの如何にも西洋風なデザイン等、さっきまで都心での一人暮らしにワクワクしていた蓮の心を砕くには申し分ない要素がぎっしりと含まれていた。
「確かにここら辺では驚くほど安い物件だからちょっとはおかしな所があるとは思っていたけどまさか…これほどとはなぁ。さすがに即決したのはまずかったか。」
そういえばこの物件を決めるときに不動産屋に本当にここで良いのですかと何度も念を押されたことを思い出す。
「こういうことだったのか…完全に早まっちまった。」
蓮はこの春に一浪しながらも大学に進学を決め、長年の夢だった一人暮らしをする事にしたのだが、どうやら最初から失敗をしてしまったようだ。
しかし考えていても始まらないし、早く部屋の掃除をしないと午後には荷物が届いてしまうので、例の装飾を視界から除外しつつ自分の新しい部屋、203号室へと向かうことにする。
階段を上がり、201号室の前を通り過ぎようという時、不意にちょっと先の202号室のドアがガチャリと開き女の人が出てきた。
「あっ、どうも。こんにちは。」
蓮は突然の住人の出現に少々声が上ずってしまったが、これから隣に住むのだからと丁寧に頭を下げて挨拶をする。
「…………こんちは。」
艶やかな髪をツインテールにまとめて勝気そうな目をしている彼女は、こっちにまったく興味が無いかのようにどこに向けられたともわからないような返事を返して、蓮が今さっき上って来た階段を下りて行ってしまった。
「なんだよ、何もあんな言い方しなくたって。」
年は自分と同じくらいか。顔が可愛かっただけになんか余計に悔しい。
気を取り直して不動産屋で受け取った鍵を取りだし鍵を開けて部屋に入ると、新しく裏返したばかりの畳の香りが鼻をくすぐる。中は外とは対照的に至って普通で、紹介通りの6畳に小さなダイニングキッチンとユニットバスが付いた部屋となっていた。
「今日からここが俺の新しい根城になるわけだ。よ〜し、これからよろしくな。」
「―――――ぅん。」
荷物を置いて一息つくために畳に寝転がって冗談で部屋に向かって言っていたら不意に返事のようなものが聞こえた気がした。
「………(ゴクリ)…」
まさかこれが噂の事故物件というものなのだろうか…。しかしそれ以上声が聞こえなかったため空耳ということにしておいた。きっとそうに違いない。
午後になり、運送屋から何箱かのダンボールを受け取り、荷物の開封と整理を済ませ終わるころにはもう夜になっていた。夕飯は家具を揃えるまではコンビニで済ませれば良いだろう。やっと部屋が整い休憩するために煙草に火を点けているとまた唐突に先ほどの声(?)がした。
「―――――ねぇ―」
今度はしっかりと声が耳に届いた。どうやら部屋全体からしているようだが誰かの悪戯でできるものでもない。どうやら本当にアタリのようだ。
「……何でしょう?」
自分でも何故そうしたのかはわからない。でも元々妖怪や幽霊等の話に興味を持っていた蓮は、興味本位からか人生でこの時ほど落ち着いていた事はないといえるくらいに冷静に返事をしていた。
「―――あっ、やっと返事を返してくれる人が来た。あのね私幽霊なんだけどどうやらここで死んじゃったみたいでね、気付いたらここに居たんだけどここからはなれr」
「ちょ、ちょっと待って!そんな早口でまくし立てられてもわからないって。とりあえず姿を見せてくれないかな。大丈夫、驚かないから。たぶん…。」
「ご、ごめんね。本当に久しぶりに人と話したもんだからつい…。一応今目の前に居るんだけど見えないよね?」
彼女は目の前に居るようだが姿も形もわからない。蓮は思わず手を伸ばして目の前の空間をかいてみたがつかまるはずもなかった。
「そうなんだ。とりあえずありがとう。まだ頭の中がこんがらがっているけど君が幽霊だということだけは理解できた。」
「そう?それは良かった。貴方はえぇ〜と――」
「藤堂蓮です。」
「蓮クンね。私は雛菊っていいます。ヒナって呼んでね。蓮クンは私が話しかけても
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