かつてのオレは、自分の姿に誇りを持っていた。
四肢は大地を踏み砕き、鋭利な鉤爪は獲物を屠り、強靭な肉体は刃物などものともせず、豪奢なる両翼は大空を思うがままに飛行した。
息を吐き出せば、森の一つなど簡単に焼き払い、雄叫びを上げればすべての存在が恐れおののき、逃げ出す。例え同族の中であっても、オレに敵うものなどいなかった。
ところが魔王が代替わりしてから、それら全ては脆く崩れ去った。
かつての誇り高き姿は脆弱なニンゲンに変えられ、しかも事もあろうことか、性別が雌に変えられてしまった。
それだけならばまだいい。魔法を使えば短時間の間とはいえ、かつての姿に戻ることも出来る。
さらにはこの姿になったために小回りが利く様になった他、不足分を補うために新たな魔法を会得していった。どちらもかつての姿ならば、絶対に実現し得なかったことだ。
オレにとって最も不満なのは、この姿になってからニンゲンを殺すことに嫌悪感を抱くようになったことだ。
かつてオレが集めた財宝を狙い、数多のニンゲンがオレの寝床に乗り込んできた。それらを俺は全て平等に迎え撃ち、そして屠っていった。
弱き者に生きる価値など無し、それをオレは自ら体現していた。
ところがどうだ、この姿になってからは、オレの財宝を狙って乗り込んで来たニンゲンを屠る事も出来ない。
しかしそんな事などお構い無しに、ニンゲンどもは頻繁にオレの寝床に乗り込んでくる。それにほとほと辟易して、住み慣れた寝床を離れたのも、一度や二度ではない。しかしそれでも、ニンゲンどもは執拗に追ってくる。
今だってそうだ。
「ば、化け物め………」
目の前には、雄雌合わせて五匹のニンゲン。そいつらが怯えた表情で、オレを生意気にも睨みつけ、敵意を発している。
まだオレは何もしていない。ただ単に威圧感を漏らしていただけだ。それだけなのに勝手に怯え、あまつさえ化け物呼ばわりとは、昔のオレならば一瞬で血霧に変えていたところだ。
「失せろ」
「ひ、ひぃ………」
こうして少し睨み返し、凄んで見せるだけでニンゲンどもは一層怯え上がり、後ずさる。
「持っているもの全てをその場に置いて、即刻オレの前から姿を消せ!」
「うわぁぁああああああああああああぁっ!!」
こう言うだけで、ニンゲンどもはオレの言葉を素直に聞き入れ、持ち物を置き去りにして逃げ出す。もっとも、そのうちの半分以上は使い物にならないゴミだ。
財宝を集める効率は遥かに向上したが、同時にいらないゴミも増えていく。かといって、一々捨てに行くのも面倒だ。結果、適当に部屋の隅に積み重ねるに留まっている。
「………退屈だな」
誰も居なくなった空間で、昔ニンゲンから奪い盗った、上質なソファに腰を沈め、オレは一人ごちる。
昔はよかった。毎日のようにニンゲンと魔物との間には争いが発生し、オレは他の同族とは違い、自ら進んで参戦して行った。個人で俺に敵うものなどいなかったが、ニンゲンどもの数と戦術は中々侮りがたく、命の危険を感じたことも多数あった。
ところが今において、ニンゲンと魔物との間に争いは滅多に無い。たまに会ったとしても、それは遠く離れた地における話で、オレが参戦する機会など無い。ニンゲンどもは愚かにも、同族同士で争う始末だ。
愚かといえば、それは同族に関しても同様のことが言える。
何でも、同族は自らを打ち倒すほどの強者であるニンゲンと添い遂げるという。だが、冗談じゃないと思う。
確かに魔王の魔力のせいで、そういう本能が植えつけられてしまっていることは認めよう。しかし、だから何だというのだ。
オレ達は地上の覇者なのだ。ニンゲンなどに遅れなど取らないし、取るはずもない。若い連中ならば、万に一つの可能性で敗れることもありえるかもしれないが、群れなければ何一つ出来ないニンゲンに、長き時を生きたオレや他の同族はが敗れるはずがないだろう。
にも拘らず、ニンゲンと共に生きる同族は後を絶たない。オレの顔見知りにも何人か、そういう奴がいる。不愉快なこと極まりない。
そこまで考えたところで、オレの聴覚は新たな侵入者を捉える。全く、懲りない奴らだ。
わざわざ財宝を溜め込んであるここで迎え撃つこともあるまい。オレは体を持ち上げ、普段ニンゲンどもを相手している部屋へと向かった。
――――――――――――――
「ああ、ヘイルのやつか。知ってるよ」
右目に走る傷跡を初め、顔中に大小様々な刀傷を負った、明らかに堅気の人間じゃない雰囲気を醸し出している酒場の店主が答える。
「そいつについての情報が欲しい」
「そいつぁお前さん、無理ってもんだぜ。最近は個人情報がなんたらで、かなりうるさいからな。最も…………」
そこで酒場の店主が、いやらしい笑みを浮かべる。
「そっちの誠意次
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
18]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録