単眼少女の依頼

自業自得という言葉がある。自分がしたことの報いは、必ず自分自身が受けるという教えだ。

その論理で言えば、悪事を犯してその報いを受けるのはその者の積な訳だから、どんなことが身に降りかかっても文句は言えないだろう。

つまりは、持ち主が寝ている間にその者の私物を盗もうとしていたのが発覚し、喉元に剣先を突きつけられても文句は言えないのだ。

「……で、一体何が目的で、夜盗紛いの事をしてたんだ?」

「……………」

ジグに首の皮が裂けるか裂けないかというギリギリの力加減で剣を突きつけられているのは、見た目十代前半の少女だった。

ただし人間の少女とは違い、青い肌に中央に寄った大きな単眼、そして額からは短くも太い角が一本、天を向いて映えている。

俗にサイクロプスと呼ばれる魔物の少女は、肌よりも青褪めた顔色に加えて、泣き出す寸前の表情で俯いていた。

周囲には全く人気の感じられない山中で、魔物とはいえ見た目はいたいけな少女に刃物を突きつけている姿は、どっからどう見てもジグの方が悪者である。だが、それをジグが聞けば、本人は声高らかに否定するだろう。

事の顛末は、遡る事数時間前。

明確な目的地を持たずに放浪していたジグは、途中でこの山の中に入り込んだ。

山の険しい道など、ボンボンの割りにアウトドアな生活を送ってきたジグにとって、然したる苦にはならない。だがそれに夜間の行動が加われば、話は別だ。

夜間に山中を彷徨う事の危険性は、彼自身が身に染みて知っていた。だからこそ、山越えは日が昇ってからということに決めて、ひとまず野宿にしようと決めたのだ。

適当な木の根元に腰掛けて目を閉じた直後には、既に現実と虚構の狭間を彷徨い始め、程なくして完全に眠りに落ちていた。しかしだからといって、自分の側で不穏な動きをする存在に気付かないほど、府抜けてはいない。

自分の側でする物音に目を覚ましたジグは、薄目を開けて周囲を確認。日が昇り始めて薄明かりに照らされた視界に飛び込んできたのは、自分のすぐ近くをウロウロと歩いている小柄な人影だった。

この時点では然したる注意を払っていなかったものの、やがてその人影が徐々に近づき、自分が宝物庫からかっぱらってきた宝剣に手を掛けたあたりで、その人影が山賊だと判断し、素早く腕を掴んで力任せに地面に引き摺り倒すと共に剣を鞘から抜き放ち、切っ先を地面にへたり込んだ人影へと突きつけて、冒頭に戻る。

「……お前、名前は?」

「………ソル」

「そうか。じゃあソル、お前は一体全体、どうしてこいつを盗もうとしたんだ?」

刀身を指で叩いて、再度問いを発する。その質問に、ソルは俯いたまま答えない。このままでは埒が明かないと判断したシグは、それ以上の追及を早々に断念した。

「あっそ、答えないならそれでいいさ。今回は見逃すけど、次は無いぞ?」

「………………」

ソルの返答を待たず、シグは剣を鞘に収めて踵を返す。まだ多少暗いものの、山越えに不自由するほどではないため、早々に出発してしまおうという判断だった。


――――――――――――――


太陽が頂点に達した頃には無事山を越える事ができ、程なくして小規模な町に到着した。

アッスルーというらしいこの町もまた、エヴァンシュタイツ王国と同様、魔物との共存化が進んでいるらしく、周囲にはチラホラと魔物の姿を確認することが出来た。

「………………」

ジグはそこで何気なく背後を振り返る。直後に、視界の端に青い影が映る。

「………………」

「………………」

ジグが若干ウンザリした表情を浮かべる。明け方からずっと感じていた視線をあえて無視していたものの、町に入ったところでいい加減悪目立ちするようになったため、仕方なく振り向いたのだが………。

「………………」

どこか不安そうな色を浮かべた単眼でジグを見つめる少女は、ジグが振り向いた際に手近な通行人を盾にして隠れていた。少なくとも本人にとっては。盾にされた通行人は、心から迷惑な表情で少女ではなく、ジグを見ていた。

ひとまずジグは前を向く。少女は安堵の息を吐き、通行人を解放する。通行人がほっとした溜め息をついた直後、再びジグが振り返る。少女も再び通行人を盾に隠れる。通行人がまた迷惑そうな顔を浮かべる。

「………………」

「………………」

「…………はぁ」

先に折れたのはジグのほうだった。

今度は前を向かず、つかつかと通行人に―――通行人の影に隠れていた少女に近づき、強引に腕を掴んで引っ張る。

「あっ………」

「お前なぁ、いい加減にしろよ」

少女の正体はやはりというべきか、ソルだった。というより、もしソルでなかったなら、逆にある種の恐怖体験である。

「俺、次は無いって言ったよな? なぁ?」

「ひっ………
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