番外編:バックグラウンド

イアーズエデンは魔界に位置しているが、人間界ともほど近い場所に存在する。

店舗となる建物は三階建てで、なかなか立派な造り。
人気店であり、所属している魔物も多いので、これぐらいで丁度いいのだ。

この店舗は山の麓に建てられている。
それも、地形がくり抜かれ、山の斜面である断崖に左右を囲まれ、建物の後ろ半分は山に埋め込まれているという、独特の立地。
鉄道などのトンネルの入口がありそうな部分にそのまま店舗がある、というイメージだ。

イアーズエデンはその立地ゆえ、真正面からしかこの建物に入れない。
そのため通常、裏側がどうなっているかというのは外からでは分からない。
今回は特別に、裏側を覗いてみよう。







店舗の裏側には大きな通路。
山の中、地下といえる部分を通っており、まさにトンネルといったところだ。この通路は洞窟らしき山肌そのままであるが、魔力的な灯りのおかげで真っ暗とまではいかない。
通常の通路の横にはパイプ状のトンネルがあり、こちらは指名された魔物と利用者が「裏座敷」へ向かう専用の通路である。

その通路を抜けると、とても広大な空間が広がっている。
もちろんこれも山の中にあたり、山がほぼ丸ごと空洞になったようなものだ。むしろ山に見えるこの景観自体、この空間を隠すためにあるのかもしれない。
こちらも魔力的な灯りのおかげで、やや暗いものの町の夜程度の明るさはある。

そしてこの空間全体こそが、イアーズエデンのバックヤードなのだ。


このバックヤードには幾つかの建物が存在する。
まず、いわゆる「裏座敷」と呼ばれる建物群。イアーズエデンの会員となった上で、同じ魔物娘を十回指名した者が、晴れてこちらに招待される。
裏座敷と聞いて連想されるようなシパング風の建築物もあれば、洋風のものや、ホテルの一室のような雰囲気のものなど、連れてくる魔物娘の趣味に合わせて様々な様式から選べるようになっている。

先述したパイプ状のトンネルは、トンネル然とした通常の通路と違い、内装も整えられて「店内」の一部にしか見えなくなっている。
利用者は店舗からそこを通って直接裏座敷の扉に向かうため、建物の立地から推測しないかぎり「地中」であることは意識できない造りだ。

裏座敷に窓はない。
時間を気にせず、覗かれる心配もなく、ゆっくりと過ごせるだろう。
ただし…これについては後述しよう。







裏座敷もかなりの面積だが、このバックヤードにおいて最も大きな建造物は、空間の半分以上を占める巨大な集合住宅らしき建物。
それはイアーズエデンに所属する魔物の寮であり、訓練施設であり、様々なシステムルームを兼ね備えた複合施設。
通称「ホーム」と呼ばれている、文字通り、魔物たちにとっての家なのである。

イアーズエデンの従業員は全寮制だ。
イアーズエデンのコンセプトは「耳かきを通じての出会い」にあるゆえ、店舗の外に出てきて普通に逢瀬を繰り返すのはそこから外れている。何せ魔物なので、そうしなければ利用者の男性を追いかけてそのまま押しかけていくだろう。
そのため「勝手に外に出ないように」と、このような地中の空間で、全寮制を採用している。それだけ聞くと監獄のようにも感じられるが、魔物娘たちはその在り方を受け入れており、なかなか充実して過ごしているようだ。







ホームから出てきた一人の魔物が急いで店舗の方へと走っていく。
どうやら、予約指名の会員がやって来たようだ。

実はこの山の山頂には物見櫓も備え付けられている。
望遠カメラが備え付けられており、その映像はホーム内で見ることができるのだ。そこには専門の常駐スタッフもいるため、的確に指示を出せる。
先ほどの立地の通り店舗の正面までは一本道なので、利用者が訪れる場合はこれにより二十分ほど前に分かるようになっている。
魔物たちは普段はある程度自由に活動しているので、利用者を待たせることなく準備を命じられるシステムは重要だ。

そう、魔物たちは基本的に自由に活動している。
起床時間や食事、就寝時間も取り決めはない。
訓練の時間なども、特に決められてはいない。

魔物たちは普段の生活、およびイアーズエデンにおける研修のほとんどを自主的に選んで受けていく形となる。
多くの種類の魔物がいるため、下手に時間を決めるとかえって非効率なのである。店舗も朝早くから夜遅くまで開いているため、利用者がいつ訪れるか分からないというのもある。

そうなると、研修を受けずにだらだら過ごす魔物もいるのでは?とお考えだろう。
もちろんその可能性はあるが、イアーズエデンは研修を受けたりして一定以上のスキルが認められないと店舗での接客はさせられないシステムとなっている。
それはすなわち、いつまで経ってもこの空間の外に出ら
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