僕の隣のお姉さん達

冬の訪れを感じさせる、雪の降る日。

とある安アパートの外廊下に、一人の少年が現れた。
彼の名はレシル。次の春からこの地区の中学校に入学する、あどけなく幼い少年だ。

まだ小学校を卒業しているわけではないのでこの時期だと引っ越しには早い。
実家からそう離れていないとはいえ、独り暮らしをするにはやはり幼すぎる。

それでもレシルがここに移り住んだのは、ずっと憧れていた独り暮らしを実現するため。
家事能力は十分あるし、家賃に関しては家族が負担してくれる事になった。
小学校の校区には入っているので、多少遠くはなるが卒業まで通える。

とは言えやはり、離れたところで独り暮らしするには不安が付きもの。
同じアパートの住人達、特に隣部屋の住人が協力してくれるなら心強い。

そういう経緯で、彼は引っ越しの挨拶の為に寒い廊下を渡ろうとしていたのだ。


「うぅっ…寒い…」

白い息を吐きながら、レシルは隣室のチャイムを鳴らした。

「ごめんくださーい」

呼びかけると、奥から聞こえてきたのは若い女性の声だった。

「はーい」
「今行きまーす」

声がしてすぐに、扉が開いた。


出てきたのは、二人組の女性。
イエティとワーシープだった。

この地方ではそれほど魔物も珍しいわけではないが、やはりその容姿は人を惹きつける。
レシルがしばし言葉を紡げずにいると、向こうが先に声を掛けてきた。

「どうしたの、ボク?」
「え? あ…こ、こんにちは。今日から隣に引っ越してきた、レシルです」
「あぁ、引っ越しのご挨拶ね! …パパやママは?」
「えっと…僕、独り暮らしをさせてもらってます」

それを聞いて二人が目を丸くした。
イエティの方がレシルに問いかける。

「独り暮らしって…キミ…じゃなかった、レシル君はいくつ?」
「先月12歳になりました」
「その年で独り暮らしするの!?」
「前々から独り暮らしをしてみたいって思ってて…来年から近くの学校に進むので…」

取りとめのない会話を続けながらも、レシルの瞳はチラチラと二人の肢体に視線を向ける。
何せ二人とも、やや厚着をしている上からでも分かるほどの巨乳なのだ。
思春期に入っているレシルには少々刺激が強い。

褐色の肌をしたイエティの方はやや見た目よりあどけなく、子供っぽい印象だ。
対象的にワーシープは、ワーシープらしく眠たげではあるが大人びた印象も受ける。


「へぇ…うん、分かった。何かあったら力になるわ」
「あ、自己紹介が遅れたね。私はイエティのマルタ」
「ワーシープのメリィだよ。よろしくね、レシルくん」
「あ、はい…よろしくお願いします、マルタさん、メリィさん。後、これを…」

レシルは引っ越し祝いとして持ってきたタオルを差し出した。

「つ、つまらないものですが…」
「あら、ありがとう。結構しっかりしてるのね、レシル君♪」

この寒さにも関わらず、マルタに褒められてレシルの頬は紅潮した。

「で、で…では、僕はこれで失礼します!」
「うふふ。じゃあね」

レシルはその後も、同じ階の部屋を回った。
同じ階にはレシルのいる201号室を含め、全四部屋。
メリィ達と逆側である203号室は空室、204号室は若い夫婦と子供が住んでいた。
部屋の位置関係で言えば、やはり隣のマルタ達との交流が多くなりそうだ。


部屋に戻ったレシルは、荷物の整理を始めた。
それほど多くない荷物だが、片付けには随分時間がかかっている。
レシルの脳裏にずっとマルタとメリィの姿がよぎり、作業が進まないせいだ。

(綺麗なお姉さん達だったなぁ…)

部屋を開けた瞬間に香ってきたいい香り。
優しそうな声色。
引っ越し祝いを渡した時にわずかに振れた柔らかい皮膚の感覚。
なによりその抜群のスタイル。

思春期の彼の心を満たすにはあまりにも充分だった。
しかもその二人は壁一枚を隔てたすぐ隣にいる。

気分が昂ぶらない理由はなかった。



荷物があらかた片付くと、どこからか声が聞こえてきた。
明瞭な声ではないが、聞き覚えのある声だった。

「…お姉さん?」

先程の二人の声だ。
それも、外からではなく隣室の方から直接聞こえてくる。


安アパートとは言え、魔物娘の多いこの地域では防音設備もそれなりに整っているはず。
不思議に思い調べると、どうやら声は壁のある一点から聞こえるようだ。

そこは明らかに、新たな壁紙を上から貼り直していた。
しかもその壁紙の端はめくれかかっている。

「…もしかして…?」

レシルは恐る恐るその壁紙を剥がしていった。

「…………!」

そこにはレシルの予感通り、穴が開いていた。
それも、縦幅30cm、横幅10cmほどの亀裂状のもので、なかなか大きい。

声はやはりここから漏れていたのだ。


「…………」

レシルは
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