ある日、少年は母親にお使いを頼まれた。
「行ってきまーす!」
お使いの先は、山を越えた先にある町。
しかしその山は、昔から「入ってはいけない山」と教えられてきた。
そのため、大きく迂回しなければならない。
住んでいる町を出て、山に差し掛かる。
少年は、その山を一瞥した。
特に険しいわけではない。
むしろ、しっかりとした道があり、もっと昔には普通に通行されていたことが伺える。
危険な動物が出るようには見えない。
それに一応、少年は熊避けの鈴も用意してあるのだ。
そして、空模様を見ると、あまり長い時間をかけると雨が降り出しそうである。
家を出る頃には、雨が降るとは想定していなかったので、雨具など持っていない。
「…………近道、しちゃおうかな」
警備する人がいるわけでもない。
本当に危険なら、警備の人間ぐらいはいるはずだ。
少年は、その山に入っていってしまった。
山道は、特に歩きづらいわけでもない。
高い山でもないので、すぐに頂上に着く。
少年は周りに用心していたが、拍子抜けするぐらいであった。
「…あれ? 何だろう、あそこ…」
頂上から目的地の方を向くと、山の中腹あたりに何か開けたところがある。
目的地と同じ方角でもあるので、少年は気になり、そこに向かっていった。
そこには、木々に囲まれた洋館らしき建物があった。
随分使われていないようで、廃墟と化している。
幽霊でも出そうな雰囲気である。
外側から見るだけで充分、そう思って、先を急ごうとした。
しかし。
「…あ、雨が…!」
想像よりずいぶん早く、雨が降り出した。
山の天気は変わりやすいと聞いたことを思い出す。
もしやそのせいで、山に入ってはいけないと言われていたのだろうか。
(ど、どこか雨宿りできるところは…)
まだ麓までは距離がある。
雨宿りできる場所といえば、この廃墟の洋館ぐらいなもの。
正直、薄気味悪いところに入りたくはない。
しかし雷が轟くのを聞くと、少年は止むを得ず洋館の中に入っていった。
中は薄暗い。
あまり長居したい場所ではなさそうだ。
それでも、雨をしのげるならそれでいい。
そう思い、入ってきた扉から外を見ようと振り向いた時だった。
扉の上から、目の前に何かが降り立った。
人影。それも少年と背丈は変わらない程度の少女。
ボロボロの衣服に、真っ赤な帽子。
そして、その手には、血のように真っ赤な鉈。
「…え?」
「…………見ーつけ、た♪」
その少女は、その鉈を少年に向けて振り上げた。
「う…うわあああああ!」
突然のことに、少年はパニックなり、洋館の奥へと一目散に逃げていく。
あんな鉈で切りつけられれば、ただでは済まないだろう。
間違いなく、殺される。少年はそう感じた。
「逃がさないっ…♪」
どうして。
あの子は、どうしていきなり刃物を振り回したのか。
見つけたとは、なんのことか。
ずっとこの廃墟にいたのだろうか。
様々な考えが少年の頭に浮かんだ。
しかし、鉈を振りかざして追う少女の姿を見ると、恐怖が他の全ての思考を奪う。
長い廊下を逃げる。
少女は足が速い。
直線ではいずれ追いつかれる。
少年は廊下を曲がると、手近な部屋に逃げ込んだ。
部屋に入ると、手近にあった棚を扉の前に置いて、侵入を防ぐ。
すぐに、外側から扉を激しく叩く音がした。
少女の怒鳴り声も。
「開けろっ!!」
「や…やだよっ!」
その声に怯え、少年はすぐに逃げ道を探す。
当初は、このまま別の部屋に逃げ込む、そのつもりだった。
しかし。
運悪くそこは、どの部屋にもつながっていない、行き止まりの部屋だった。
(ど、どうしよう…!)
戸惑う少年は、部屋に響き渡る打撃音に肩を震わせた。
少女が、扉に鉈を打ち付け、無理やり入ろうとしてきているのだ。
音からするに、かなりの力があるようだ。
このままでは、扉を壊されて侵入されるのは時間の問題だろう。
部屋を見回すと、クローゼットの一団があった。
隠れられそうな場所はそこしかない。
見つかりませんように。
祈るような気持で、少年はいくつも並んだクローゼットの一つに身を隠した。
打撃音。
木製の扉がだんだん砕けていく音。
クローゼットの中で、少年は体育座りになって震えていた。
声が漏れないよう、必死に両手で口を押えている。
―この山に入ってはいけない。
恐らくは、あの少女のこと。
ようやくその意味を理解した少年だが、この状況では手遅れだった。
扉の蝶番が外れる音。
あの扉に、もう侵入を防ぐ能力がなくなったことの知らせだった。
扉が廊下に倒れる音。
少女が扉を外したのだろう。
もう、部屋に入ってくる。
そして棚が蹴倒さ
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