少年は、期待と不安でいっぱいだった、
母親の知人が、今日から少年の家庭教師についてくれるという。
聞けば、大学の後輩だとか。
ちなみに母親は、今やすっかり魔物になっている。
ならばやはり、その知人である家庭教師も魔物なのだろうか?
年上のお姉さんに、勉強を教えてもらえるという期待。
どんな人が来るのか、ちゃんと勉強できるかという不安。
ピンポーン。
インターホンの音が家の中に響いた。
少年はぴくりと肩を震わせる。
来た。
母親が応対しているようだ。
もうすぐ、部屋に入ってくるのだろう。
心臓の鼓動が早まるのを感じる。
そして、ノックの音がした。
「こんにちは」
落ち着いた、綺麗な声。
聞くだけで、その人の知性がうかがえるような声。
少年は緊張しながら返事をした。
「ど、どうぞ」
「はい、失礼します」
入ってきた人影を見て、少年は息を呑んだ。
眼鏡をかけた、長い銀髪の、綺麗な女性。
ただ、その足には毛皮が、その頭には角が。
やはり魔物、しかし初めて見る種類。
しかし、それ以上に少年の目を引くものもあった。
中華風の服越しにでも目立たざるを得ない、大きな胸。
下半身はスリットの入った服で、太ももが見えている。
思春期の少年には、少々刺激が強い。
「あ、ああ、あの、こ、こんにちは…」
少年の挨拶も緊張と動揺のあまり震え声になる。
その様子を見て、その女性―白澤はニコリと笑みを浮かべて応える。
「はい。これから、よろしくお願いしますね♪」
心を奪われるには、一瞬で充分だった。
それと同時に、勉強に集中できる気がしなくなってきたのだった。
それでも、白澤の指導は懇切丁寧。
今まで分からなかった授業の内容が、スイスイと頭に入ってくる。
「そう。ここは、こうして…」
「…わ、分かりました、こうですね?」
「はい、正解です。よくできましたね♪」
椅子に座っている少年の背後から、白澤が問題集を覗き込むように指導する。
もちろんその体勢になれば、あの大きな胸が背中に当たる。
ただ、少年にそれを指摘しろと言うのは酷な話であろう。
「貴方はなかなか呑み込みが早いですね」
「そ、そんなことないです。先生の教え方が良いからで…」
「ふふ。ありがとうございます」
実際、先程までの自分なら解けなかったような問題すら、軽々と分かってしまう。
その指導能力は本物だった。
「…あら、もう時間ですね」
「え? あ、ほんとだ…」
気付けば、あっという間に時間が過ぎていた。
「それでは、また来週、お勉強の続きをしに参りますね」
「あ…は、はい」
もう帰ってしまうのかと名残惜しくなる。
勉強を教えてもらう人に対してそう思うなど、先程までは考えられなかった。
帰っていく白澤の後ろ姿を見送る。
フサフサした白い尻尾が揺れている。触り心地がよさそうだ。
もちろん、そんなことを本人に言える勇気はないのだが。
少年は、今から来週が楽しみになっていた。
・
・
・
翌週の、白澤が訪れる日。
少年は、今度は心待ちにしていた。
あの人に、また会いたい。
インターホンの音。
しばらくして、ノックの音。
「こんにちは」
「は、はい、どうぞ!」
「失礼します」
先週と同じように、白澤が入ってくる。
相変わらず、一目見ただけで美しく、そして魅力的だ。
「それでは今日も、頑張りましょうね♪」
「はい!」
今回の指導も、丁寧かつ分かりやすい。
この二回の指導だけで、自分の実力が上がっているのを感じた。
「えっと…先生、ここは…」
「うーん、そうですね…」
やはり胸が当たっている。
そんな白澤に少年が質問すると、白澤は何やら思案した。
「…少々、お待ちくださいね。教材を持ってきますから」
「え? あ…は、はい」
少し困惑する少年を置いて、白澤は退室していった。
本音を言えば、もう少しあの柔らかさを感じていたかった。
「お待たせしました」
「はい…って、えぇ?」
戻ってきた白澤は、キャスター付きのホワイトボードを転がしていた。
「これで説明した方が分かりやすいかと思い、用意して頂きました」
「へ、へえ…」
「では、再開しましょうか」
こんなもの、いつの間に家にあったのだろうか。
少年の当惑はともかく、指導は再開された。
先程までと違い、白澤と正面で向き合っている。
その姿が、よく見える。
「ここが、こうなりますから…」
「…はい」
ホワイトボードよりも、ついつい白澤の身体に目が行ってしまう。
だからといって、少年を責めるのも酷な話というものだろう。
「…あぁ、余所見してはダメですよ」
「あっ、ご、ごめんなさい」
ホワイトボードによる解説が終わると、再
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