少年と亀

夏休み、最後の日。

その少年は一人で海に出かけていった。
ただし、まだ人のいる海水浴場ではなく、ほとんど人の来ない、遊泳禁止の浜辺に。

水着でもないところをみると、少年は海水浴というよりも、海を見に来たようだ。
思春期を迎えた少年の、夏の終わりへのささやかな感傷だろうか。

「もう、夏も終わりだなぁ…」

少年は独り言を呟きながら、浜辺を歩いていた。


すると少年は、その海の、浅瀬の中に何か影を見つけた。
よく見ると泡が浮いてきており、どうやら生き物であるらしい。
人間の形をしているようにも見える。

(こんなところに人? …遊泳禁止なのに?)

姿はよく見えないが、その人らしき影は全く浮き上がってこない。
もしかすると、うっかり遊泳禁止の場所で泳いで溺れてしまったのだろうか。

「…だ、大丈夫ですか!?」

少年は声をかけながら走り寄っていった。


その瞬間、その影は丸い塊へと形を変える。

「え…?」

その拍子に少し浮き上がったそれは、そのまま波に乗って浜辺に打ち上げられた。



立ち止まった少年は、その影の主の姿を捉える。

「…………甲羅?」

そこにあったのは、大きな亀の甲羅だった。

「なんだ、亀だったのか…」

一安心した少年は、甲羅に背を向けてまた浜辺を歩き始める。



(…って、こんなところに亀なんていたっけ?)

少年はふと立ち止まると、甲羅へと振り返った。

「…………え?」

そしてそのまま、言葉を失った。



「…んしょ…っと」

甲羅から手足が伸び、少女の体が出てきたのだ。


「ふぅ、もう少しで見つかるとこ…………あっ」

そのまま這うように海に戻ろうとした少女は、ふいに少年と目があった。

「…………」
「…………」

数秒間、二人は凍り付いたようにその場に停止した。


と、少女が突然顔を真っ赤にして慌てだした。

「あわ、あわわわわっ…!」
「あ、ちょっと!」

海へ逃げようとする少女に、少年は走り寄った。
声をかけられ、ビクッとした少女はその場に固まる。

「は、ひゃいっ!?」
「え、えっと…キミは…?」

質問をしながら少年は、少女がどうやら人間ではなさそうだと察した。
普通の人間はこんなところで亀の真似なんてしないだろう。つまり、魔物。

問われた少女は、おずおずと答える。

「あ、あの、私…ふ、普段は海に住んでまして…陸に上がろうとしたら、たまたま…」
「へぇ…海から…」

少年はこの少女―海和尚に、俄然興味を持った。

「ねぇ、ちょっとお話ししたいんだけど、いいかな?」
「ふえっ!? は…ひゃいっ、いい…ですよ…」

話しかけるたびにビクッと反応する海和尚を見て、少年の内に何かが芽生え始めた。

(あ…この子、可愛い…)

少年は海和尚に手を差し出す。

「ひゃうっ!?」
「一緒に歩きながら話しようよ」
「ふえ…? あっ…はい…」

海和尚は恐る恐るその手を取り、立ち上がった。

(…………あ…)

少年の目は、一瞬その姿に釘付けにされた。

小柄な少年とほぼ変わらない背丈。
にも関わらず、亀の腹に似た模様の服からは、明らかに成熟した胸の谷間が覗く。
しかもよく見れば、スカートは透けていて、太もも、下腹部、それに…


「…あ、あぁ、えっと…じゃ、行こうか」

我に返った少年は、胸の鼓動が高まるのを抑えながら、二人で歩き始めた。



「よく…ここに来るの?」
「えっと…じ、実はここに上がってくるのは初めてで…」
「そうだったんだ…」

「あ、あの、さっきのは、わたし、びっくりしちゃって…」
「あ、うん。大丈夫だよ」

会話をしながらも、少年の視線はこっそり横目で海和尚の肢体を映している。



それと、彼女のたどたどしい言葉を聞いているうちに、少年は不思議な感覚を味わう。
既に性には目覚めている少年だが、内から湧き出るこの感情は初めてのものだ。

(この子に…えっちなことをして…いじめ、たい…)

少年は、普段は優しく、人をいじめようなどと思うような人間ではない。
にも関わらず、海和尚を見ていると、何故だかそのような気持ちになる。

(…………あっ、い、いけないよ、そんなの…)

だが少年はまだ理性を保ち、なるべく平常心であろうとした。
それでも胸の高まりはとまらず、先程から股間にも圧迫感を覚えている。

少年は勃起を悟られまいと話を続けた。


「…あのさ、その甲羅って重たそうだけど、大丈夫なの?」
「は、はい、これけっこう…あっ…うわわっ!?」

少年の質問に対し、海和尚は甲羅に目をやろうとして後ろに体重を傾ける。
すると海和尚は体重を傾けすぎ、バランスを崩しひっくり返ってしまった。

「あっ、だ、大丈夫!?」


どうやら起き上がれないらしく、手足をバタつか
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