年端もいかない少年がオニに攫われたようです

話は五分前に遡る。

「うぅ…暗いよぉ…」

もう夜だというのに、人気のない道を歩いている少年がいた。

一人で川遊びをしていたら、夢中になりすぎて日が暮れてしまったらしい。


「早く帰らないと怒られちゃう…」

辺りをキョロキョロしながら、肩をすくめている。



「おっ? こんな時間に何出歩いてンだ?」
「!?」

すると突然、目の前に黒い影が姿を現した。

立派な角。
虎柄の腰巻き。

それは紛う事なくオニだった。
暗いせいで色はよく見えない。

「ひっ…!」
「丁度イイなぁ…酒のつまみに…♪」
「え…………えっ?」

オニの目は据わっている。


少年は昔から、オニは人を喰うと教えられてきたタイプだ。
バッタリ出くわしてしまった恐怖で、足が竦んでしまっている。

「…………ジュルリ」
「い…



いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

叫び声を上げて逃げようとするも、時既に遅し。

そのまま小脇に抱えられ、森の奥へと連れ去られてしまった。

(そしてあらすじのシーンへと繋がるのであった。)






少年はオニ達の隠れ棲む洞穴まで連れ込まれてしまった。

奥の焚き火の明かりで、少年を連れてきたのはアカオニだと分かった。

「ひっ…」

見てみると、奥にはまだ三人ほどのオニがいる。
少年の脳裏に、両手足の先から同時に喰われていく自分の姿が浮かんだ。

「あわ…わわわわ…………や…やめて…っ!」

じたばた暴れるが、アカオニは全く動じる様子がない。
それを見て、酒盛りをしていた他のアカオニ達が笑う。

「あははっ、必死になってやがる!」
「連れてこられたらもう手遅れだってのにな♪」

「や…やだよ…そんな…たすけて…たすけてよぉ…」

少年はメソメソと泣き出してしまう。

「おーおー、可愛いじゃねぇか♪」
「丁度酒も回ってきたし…このまんま食べちまうか?」
「いいねぇ…新鮮な男なんて久しぶりだ♪」

アカオニ達の嗜虐心はいやが上にも高まっている。

「そ…そんなの…や、やだ…やだやだ、助けてっ、誰かぁ!」

少年は最後の力を振り絞って抵抗する…



「…貴方達、それぐらいにしてあげなさい」

その時、一番奥にいたオニがアカオニ達を制止した。

見ると、それはアカオニではなくアオオニだった。
眼鏡をかけており、アカオニ達に比べて随分理知的に見える。

「あー? なんだよ、つれねえなぁ…」
「こんな状況で無理矢理したら…その子、心も体も壊れちゃうわよ?」

アオオニの言葉に、アカオニ達は不機嫌そうに口をへの字に結んだ。

「…ちぇっ、お説教を聞くと酒が不味くなっちまわぁ」
「大体さっきからオメェだけシラフってのはどういう了見だ、あぁ?」
「…………別にいいじゃない。お魚も美味しいんだし」
「だったら尚更酒も飲みやがれってんだ…」

他のアカオニ達は完全に目が据わっている。

「…とりあえず、その子は離してあげたら?」
「あぁ? 折角捕まえたのにか?」
「逃がすなんて言ってないわ。離すだけ」

冷静な物言いに、アカオニは少々不機嫌そうにしながらも少年を離した。

「へいへい…おっと、逃げんじゃねぇぞ? 逃げたらどうなるか分かるよな?」

隙をついて逃げようとした少年は、その言葉にビクッと体を震わせ、ゆっくりと頷いた。

(うぅ…このまんま食べられちゃうのかな…)

そのまま半泣きになりながら体育座りで項垂れる。



アカオニ達は酒盛りを続けているが、アオオニだけは酒をまだ飲んでいない。

「あっはっはっはっは! 今日も酒が美味いなーっ!」
「全くだぜ♪ …よう、そろそろ喰っちまおうぜ、その子…♪」

隣のアカオニが首に腕を回してきた。

アカオニ側からすれば、それは親愛の表現に他ならない。
しかし少年はそれを、『首を絞め落としてから食べる』と解釈してしまった。

「ひぃっ…や、やめて…!」
「…待ちなさい」

少年を救ったのは、またしてもアオオニの一言だった。

「おいおい、またそれかよ!」
「いい加減喰っちまおうぜ!」
「ダメよ。…………ねぇ君、こっちに避難しなさい」
「は、ひゃい…」

アオオニの言葉に、少年は急いでアオオニの隣に這っていった。

「なんだってんだよ、お前ばっかり…」
「貴方達が野蛮すぎるから、この子もこんなに怯えてるんじゃない…」

アカオニ達はムスッと頬を膨らませたが、またすぐに酒盛りに戻った。



狭い洞穴内に酒の匂いが充満する。

「…お水ならあるわよ。いる?」
「あ…は、はい…いただきます…」

猛烈な酒気に、少年の頭もクラクラしてくる。
見ると、アオオニの頬も僅かに上気して赤くなっていた。

(このアオオニさんがいれば…もしかしたら僕、助かるかも…)

そんな微かな希望が芽生えかけたときだ
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