山の麓に位置する、小さな村があった。
小さいながらも住民は200人ほどで、活気があった。
そこに住む11歳の少年と、年の離れた19歳の姉がいた。
少年はやんちゃ盛りで、よく探検などと称して山へ出掛けていた。
「あんまり山に入っちゃダメよ! 怖ーい怪物が出るからね!」
「大丈夫だって!」
「もう…せめて奥深くまで行かないでね!」
姉が注意しても、どうせ作り話だろうと聞き入れずに、三日に二回の割合で山を訪れていた。
その日も少年は、いつものように山を訪れていた。
「今日はもっと深くまで…もっと探検してみよう!」
少年は意を決し、今までよりも更に山奥へと進んでいった。
と、そこで少年は姉の言葉を思い出した。
(「怖ーい怪物が出るからね!」)
(「せめて奥深くまで行かないでね!」)
「…………」
少年の心に一抹の迷いが生じた。
しかし…
「今の魔物はみんな優しいんだ。怪物なんて…出るわけない…出るわけないんだから…」
怪談話と蜘蛛は苦手だが好奇心旺盛な少年は、自分に言い聞かせて先へ進んでしまった。
木々をかき分け、少年は進んでいく。
何かに突き動かされているように。
何かに導かれているように。
何かに引き寄せられていくように。
「もう少し…あの岩まで…」
少年は最終地点と定めた岩まで進んでいった。
・
・
・
「今日は…このくらい…で…………」
岩まで辿り着いた少年は言葉を失った。
岩陰から、見たこともない魔物がこちらを見ていたのである。
大きな角。
緑色の肌。
黒い毛に覆われた、蜘蛛の下半身。
そして獲物を見つけた捕食者のような、嗜虐的な眼差し。
少年は知らなかった。
あまりにも危険であるため、子供達には存在すら伏せられてきたこの魔物のことを。
「怪物」と呼ばれる魔物、ウシオニ。
獲物を襲おうと人里へ向かっていたところに、少年がバッタリと出くわしてしまったのだ。
「お前、美味そうだな…」
「…………え…? 美味…そう…?」
蜘蛛が苦手な少年は、既に血の気が引いた顔で訪ねた。
ウシオニは少年の問いを無視し、嘗め回すような視線を向けて大笑いしだした。
「あっはっは! こりゃぁ良い! アタシ好みの若い男だ!」
「ど、どういう…」
少年が再び聞くと、ギロリと睨まれた。
「あ? んなもん決まってるだろ? アタシの巣に持ち帰っていたぶってやるってのさ!」
そう言うとウシオニは少年に飛びかかった。
「ひィィィ!?」
少年は山潜りで鍛えたフットワークで、辛うじてそれをかわした。
「だ、だ、だ、誰かっ…!」
少年が村の方へ逃げようとすると、ウシオニに回り込まれてしまった。
「さっさとアタシのモンになれやぁ!」
「や、やだ…嫌だぁぁぁぁぁっ!」
少年は村とは正反対の方角へと逃げ出した。
遠回りになってでも、いずれは村へ戻る。
もしくは別の村に助けを求める。
そうする予定だった。
「待ちなって言ってんだろぉっ!」
ウシオニは猛烈な速度で追ってくる。
「やだ、やだ、やだやだ、誰か助けてぇっ! ボク…ボクまだ死にだぐないィィ!」
恐怖のあまり泣きじゃくり、脚をもつれさせそうになりながら必死で逃げる少年。
そんな姿を見て、ウシオニの嗜虐心は否が応にも高まった。
「ハハッ! もっと逃げてもいいぜ!? どーせ逃げ切れねえんだしなぁ!」
「やだっ! やだぁっ! こないで、たすけて、ゆるしてぇぇっ!」
八本の脚で木々の間を巧みに渡り歩き、すばしっこい少年との差を縮めていく。
「あっはははっ!」
「ゆるしてぇぇぇっ!」
そしてウシオニは鋭い眼光で少年を見据えた。
「てめぇの表情は面白ェけど…追っかけっこばっかりしてるほどアタシは気長じゃねぇんだよ」
凄みのある声で呟かれ、少年の全身の毛が逆立ち、鳥肌がブワッと広がった。
「そろそろ終わりにしようや!」
ウシオニは臀部から縄のような糸を吐き出した。
それは少年の脚にからみつき、少年はバランスを崩して落ち葉の上に転倒した。
「あうっ!」
「ほうら…捕まえたぜ♪」
「あ…あぁっ…!」
糸で少年をグルグル巻きにすると、小脇に担いで巣へと戻っていく。
「は…はなじでぐださいっ…ゆるじでっ…死にだぐないっ…や゙め゙でぇぇぇっ!」
泣き叫び、必死で許しを乞う少年の悲痛な声は、ウシオニの情欲を高ぶらせるだけだった、
「目一杯かわいがってやるからなぁ…♪」
彼女の囁きと舌なめずりの音は、少年を絶望の淵へ叩き込むのには充分だった。
「やだ…うそ…そんな…………あ…あぁ…ぼく…………ぼく…」
恐怖に震えながらうわごとのように呟
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