(うぅ…誰か来ないかな…)
外は嵐の夜。
つぼまじんは、雨風をしのぐ場所を探してこの廃屋に辿り着いた。
窓から忍び込み、その石造りの部屋の隅で壷の中に隠れる。
あわよくば夫を見つけようと、彼女は壷の中で待ち続けた。
壷中天。
つぼまじん達が隠れる壷の中は、そう呼ばれている。
彼女たちの腰の壷のサイズからは考えられない広さ。
ちょうど、彼女が壷に入って隠れているこの廃屋の一部屋と同じぐらいの広さはある。
壷を覗き込めば、男は瞬く間に壷の中へ吸い込まれる。
そしてその吸引魔法に抗う術はない。
中に入れば、男は誘惑魔法がかけられ、彼女達に精を提供する。
この誘惑魔法もまた、抗う術はない。
非力な彼女達に合わせ、誘惑魔法も男の欲望を乱暴にぶつけさせないように調節している。
即ち、この中で隠れているだけで、夫が自分から来てくれるという算段だ。
ただそうは言っても、気弱な彼女達は来てくれた夫に怯えはする。
吸引魔法も誘惑魔法も、彼女ら自身の意思で発動しているわけではないからだ。
たとえ誘惑魔法により、そんなに乱暴に扱われはしないとしても。
・
・
・
夜が明けた。
すっかり天候はよくなり、部屋の窓から朝日が差し込んでいた。
少女が耳を澄ませば、壷の外から小鳥のさえずりも聞こえてくる。
小鳥が何処かへ飛び去ると、代わりに足音が響いてきた。
一人ではない。
少なくとも五人…いやそれ以上はいる。
(お、多い…!? い、一気に来られたらどうしよう…)
つぼまじんが顔を青ざめさせていると、声が聞こえてきた。
声変わりしているかしていないかという、少年の声だ。
「あれ、ここにこんな壷あったっけ?」
「なかったはずだよ」
「じゃぁこれは一体いつ…どこから?」
「何か入ってるかもしれないね。…僕見てみる」
声の感じから、13歳以下…平均して10歳前後だろうか。
少年の一人が壷に近づこうとした。
(来る…!?)
「待って」
その時、別の少年が彼を引きとめた。
「どうして?」
「…………」
少年は無言で、他の少年たちを部屋の外へと連れ出した。
(な、何…? 何なの、一体…?)
部屋の外に出られると、彼女に話し声は聞こえない。
「突然壷が現れる…って、やっぱり変でしょ?」
「うん」
「でさ、あの壷…ずっと前、図書館で見たことがあるんだ」
「図書館? お前そんなとこにいつ…」
「ずっと前さ。まだお父さんもお母さんも生きてた頃」
「…それよりさ、あの壷…何なの?」
「たぶん、つぼまじんじゃないかな」
「つぼまじん? …って、魔物の?」
「うん。覗き込んだら壷の中に吸い込まれちゃうらしいよ」
「ホントかよ…!?」
「じゃ、じゃぁどうすればいいのさ?」
「…簡単さ」
暫くして、少年たちはまた部屋に入ってきた。
「聞こえてるか、つぼまじん」
(えっ!? バ、バレてる…!?)
「僕たちは親を亡くした子供で結成した盗賊団。ここはそのアジトだ」
(と…盗賊団!? アジトって…!?)
「勝手に僕たちのアジトに侵入したからには、ただじゃおかないよ」
「…………!」
その瞬間、少女の上から大きな石が降ってきた。
最初に紹介した壷中天に、追記しておくべきことがある。
それは壷中天の弱点だ。
壷の中にものを投げ入れられると、つぼまじんは怖がって逃げ出してしまう。
逃げるだけならまだいい。
重いものを投げ入れられると、つぼまじんは壷の中から飛び出してきてしまう。
つまりそれは、彼女らの安全を保障する壷中天から追放されることに他ならない。
そして外の世界には、つぼまじんを乱暴に扱わないようにさせる魔法などかかっていない…
「ひゃぁっ!」
大きな石を投げ込まれたつぼまじんは、壷の中から飛び出してきてしまった。
「うっ、うぅ…」
辺りを見回すと、そこには10人ほどの少年たちが、部屋の隅にいる彼女を取り囲んでいた。
顔こそ中性的だが、その手には、棍棒やナイフが握られていた…
「…っひぃ!?」
「ふふふ…♪」
自分の置かれた状況を理解したつぼまじんは、慌てて壷に戻ろうとした。
…が、その壷は少年たちにより蓋をされ、戻ることが出来なかった。
壷のないつぼまじんは非力だ。並の人間よりも力は弱い。
「さて、どうしてあげようかな…?」
「ボコボコにする?」
「ズタズタにしちゃう?」
「ボコボコにしてからズタズタにしちゃおうか?」
「さぁ、どれにしようかな…?」
少年たちは残酷で、加虐的だった。
今まで、生きるために強盗を繰り返し、その過程で人を傷つけもした。
そんな彼らにとって、これらの提案は決して演技ではない。
「ゆっ…許して…許してく
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想