第一章・第六話 Mission3:ドラゴン

「はぁ…」


ぶらりと玉座の間へ赴いたクレイは、フェイランが溜息をついているのを見かけた。

「どうしたんですか、フェイランさん?」
「ん…クレイか」
「…レイシアさんに搾られすぎたんですか?」
「いや、あれぐらいじゃ“搾られ過ぎた”とは言わん」
(あの量で!?)

一呼吸おいて、フェイランは話し始めた。

「…実はな、スタッフの増員がなかなか上手くいかんのだ」
「スタッフ…って、僕やレダさんみたいな?」
「ああ。もっと言うなれば君のようなショタ人員だな」
「そういえば、僕以外はここに来てませんね…」



フェイランは肩を落とすように頷いた。

「奴隷として売りに出された者を買おうとしたが、途中で魔物の襲撃に遭い強奪された」
「強奪、ですか…」
「今頃は魔王城の上級デュラハンの性奴隷にでもなっているだろう。惜しい事をした…」
(ここに来てもあんまり変わらないような…)

「他にもいる。ある日訪れた森の中でお菓子の家があってな…」
「お菓子の家!?」
「ああ、あるんだから仕方ない。中にはショタとロリ二人が暮らしていた」
「で、その人たちを勧誘したんですか?」
「いや、あまりにも仲睦まじく暮らしていたから断念した」
「…………フェイランさんが諦めたんですか?」
「スタッフは強奪したり誘拐したりしない事にしている。家族がいるなら尚更だ」



「僕は孤児院にいたんですけど、それは家族にあたるんじゃないですか?」
「家族と言うかもしれんが、一応は自分の意思だろう。誘拐したわけでもない」
「そうですよね…」


するとフェイランは一転してにこやかな表情を浮かべた。

「だが喜びなさい。一週間後に新しいスタッフが来る予定だからな!」
「そうなんですか!?」
「奴隷として売り出されかけたのを私自ら買い取った。今回は危険地帯を通らせはせん」
「へぇー、どんな子なんだろう? 楽しみだなぁ…」

「ふふっ…いい“遊び相手”になってくれるはずさ」

フェイランの笑顔と共に放たれた台詞に、クレイは一抹の不安を感じた。






フェイランは表情を戻し、クレイの方を見据えた。

「さて、丁度来てくれたことだし…久々に任務を与えよう」
「えっ、これから任務ですか!?」
「…フィアリア達と約束しているのか?」
「あ、はい…これから正午まで…」
「なら平気だ。夕飯までに任務を終わればいい」

クレイは恐る恐る尋ねた。

「…ちなみに…今回の対象は…?」



フェイランは口元に笑みを浮かべて言い放った。

「…………ドラゴンだ」


「謹んで辞退させて頂きますっ!」

クレイは青ざめて逃げ出した。



「…………あの青ざめた顔、写真機で撮っておけばよかったな…可愛いかったのに」

残されたフェイランは、ポツリと危険発言を放っていた。















フィアリア達と交わった後、クレイは昼食を摂る。
しかし、そこにいつもいるはずのフェイランの姿はなかった。

クレイは同席しているレダに尋ねた。

「あれ…? フェイランさんは一緒に食べないんですか?」
「フェイラン様は先程ミズガルズの図書館にお行きになられました。調べたい事があると…」
「図書館に? いつもお昼御飯は同じ時間に食べるのに…」
「確か『私の記憶と仮定に確証を持ちたい』と仰っていましたが…私にもさっぱり」
「そうですか…」
「他にもお買い物をされるようですし、昼食も向こうでお摂りになるようです」



二人が昼食を食べ終わった後、フェイランが荷物を携えて帰ってきた。

「今帰ったぞ」
「お帰りなさいませ、フェイラン様」

レダが門の前で出迎える。

「クレイの玉座の間に呼んでくれ。昼食は済んだな?」
「はい」
「…それと、ユウリから食材と税の納付分を貰ってきた。こっちは倉庫に入れてくれ」
「かしこまりました。しかしすみません、わざわざフェイラン様が…」
「ついでだ、ついで」

フェイランは荷物をレダに渡し、共にヴァルハラへと戻っていった。









玉座の間へ呼び出されたクレイは、またしても青ざめていた。

「クレイ」
「はひっ!?」

クレイは突然フェイランに名前を呼ばれ、間の抜けた返事をしてしまう。


\パシャリ/


「…へ?」
「よし、いい表情だったぞ…」

フェイランの手には黒い箱状の物体が握られており、先ほどのクレイの表情を撮っていた。

「あの、それは…?」
「写真機…カメラだ。撮った写真は魔力で複製・転写が出来る優れものだぞ」
「レダさんの言ってたお買い物って、それですか?」
「ああ」

「じゃぁ調べものっていうのは…?」
「それはクレイに今ここで話しておく必要はない。いずれ分かる」



すると、クレイはまた表情を曇らせた。

「やっぱり…
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