翌日。
「レダ、留守は任せる。泊まる事になったら連絡はしておこう」
「行ってらっしゃいませ。フェイラン様、クレイ様」
ヴァルハラの門前では、フェイランとクレイがレダに見送られていた。
「そう言えば、フィアリアに挨拶はしたのか?」
「はい。ラーナさんやリノンさんにも…」
「…………なるほど。それで二日分ほど搾り取られたと」
「う…はい。どうして…」
「それぐらい匂いで分かる。私でなくてもな」
クレイは自分の匂いを嗅ぐ。
「…………本当だ…ちょっと匂うかも…」
「まぁいいさ。普通の町ならともかく、これから行くのは魔物の住処だ。気に入られるかもしれん」
ヴァルハラを後にした二人は、フェイランがクレイを抱えて暫く歩いた。
「フェイランさん…歩いて着くんですか?」
「いや、ここからは100kmほどある」
「ひゃく…!? だったら歩いてちゃ…」
「まぁ待て、もちろん飛んでいく予定だ。その為には高台に登るのが良い」
「高いところからじゃないと飛べないんですか?」
「気分の問題だ」
「第一、展望台からでも行けたんじゃ…」
「気分の問題だ」
「…あと、どうしてボクお姫様抱っこされてるんですか?」
「気分の問題だ」
「…………」
「さ、着いたぞ」
気が付くと、二人はヴァルハラの周りを覆っている切り立った山の頂上にいた。
「しっかり掴まっていなさい」
「はい」
「かぁッ!」
フェイランが気合を入れると、彼の背中から六枚の黒い翼が生えてきた。
「行くぞ」
「は…はいっ!」
フェイランは猛スピードで南へと向かった。
「フェイランさん…」
「どうした?」
「この前は翼がなくても飛べましたよね?」
「…気分の問題だ」
フェイランはクレイをしっかりと抱え、クレイもまたフェイランにしっかりとしがみついている。
三十分程飛ぶと、山の頂上に小屋があった。
「あそこですか?」
「いや、用はあるが目的地ではない。一旦降りるぞ」
フェイランはその正面に降り立つ。
「ずっとしがみついて疲れたろう、少し休むと良い」
「あ、ありがとうございます。ここは一体…」
「ここは土産物屋だ…彼女に何か買ってきてやろうと思ってな」
「こんな所で、商売できるんですか?」
「主にハーピー種とかが来る。…その点で分かるとおり、店主も魔物だ」
「いらっしゃい!」
中に入ると、黄色い髪のハーピーが出迎えた。
「よう、ハル。彼女への土産にいいものはないか?」
「ありゃ、フェイランさん!?」
ハルと呼ばれたハーピーは心底驚いた表情をした。
「びっくりした…いきなり大物が来るんだもん」
「大物…?」
「そうだよ、何せこの人は…って、あなた誰?」
「この子はアルカ計画のスタッフ…クレイだ」
ハルはクレイを見回す。
「ふーん、匂いからしてそうだね」
「休ませてやってくれ」
「よし! じゃぁ奥で休んでやってくれ、クレイ君!」
「は、はい…」(テンション高い…)
クレイは店の奥へと入っていった。
「で、ハル。さっき言った事は忘れてないよな?」
「大丈夫だよフェイランさん! これとかどうかな?」
ハルは翠色の宝石が付いたネックレスを出した。
「魔力入りエメラルド付きネックレス! しかもこれにはね…」
商品の説明をした後、ハルはフェイランに耳打ちする。
「…………なるほど。良いかもしれん」
「…ところで、フェイランさん。あの子…」
「君の察したとおりだ」
「とうとうアルカ計画も本格始動したねぇ♪」
「ああ。この店には何百年も前から世話になった」
それを聞いてハルの顔がニヤける。
「嬉しいこと言ってくれるねフェイランさん! じゃぁその気持ちに免じて、五割増でご提供!」
「増すな増すな」
「冗談だってば〜。…お代はこれくらいね」
「よし」
フェイランは金貨袋を取り出した。かなり高価なネックレスらしい。
「即現金払いね…やっぱ凄いわフェイランさん」
「元々ここに来る予定だったからな。これくらいは準備しなければなるまい」
「金貨袋ドンってなかなかいないわよ。…毎度あり♪」
ネックレスを灰色の箱に入れて渡されたフェイランは、店の奥へ呼びかける。
「クレイ。そろそろ出発だ」
「あ、はい!」
「またのご来店を〜♪」
ハルは上機嫌で二人を見送った。
「フェイランさん。さっきから言ってた彼女って…」
「昨日も言ったが、一番長い妻だ。会えば分かるさ」
二人はそこから更に南へ飛んだ。
「何を買ったんですか?」
「とっておきのプレゼントさ」
そこから一時間以上飛ぶと、海の真ん中に水色の島が見えてきた。半径は200m程だ。
「水色…?」
「おっ、着いたぞクレイ。降りよう」
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