彼は、優しい。
滅び行く故郷ですら愛してしまうほどに。
夫がいなければ犯していたのは彼だった。確実に
あの旅でも彼は前にたち、仲間のために囮になり、自分の能力を惜しげもなく仲間に使った。
なんでもできるアタッカー。
頼りになる仲間。
そんな彼が今、苦しんでいる。
私の創った世界で。
「そんな事、許さない」
絶対に幸せにしてみせる。
夫と同じくらい大切な仲間。
彼と結んだ約束を破ってでも。
ーーー彼は魔物娘が嫌いなわけではない。愛した故郷のせいで一歩を踏み出せないだけ。
だから、“自分が人間だ。”と思っている魔物娘に弱い。
彼は、 “ソ レ“を否定できない。
だから人として接し、誠実でいるだろう。
だって、彼は優しいから。
人の弱さを理解できる人間だから。
「この子と、“お幸せに
#9829;
#65039;”」
そうやって、魔王であるわたしはひどい笑顔で資料をまとめ、彼に電話をかけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本、M県S市、絵流田村(えるだむら)にて、魔物の目撃情報が入った。
また、集団行方不明事件が起きているらしい。
「蜘蛛のような化け物」
証言した女の子はそう言ったらしい。
そうしてこう、調査に来た訳だがーーー
「絵流田村はいいですよー、のんびりとしたところで。」
バスも通じていない田舎という事で、地元の神主さんの軽トラにのせてもらっている。
荷台の毛布やロープがガタガタと震えている。よく見るとハンドルを握る手に大きな切り傷も見える。
神主は中肉中背、温厚そうな顔で愛想よく世間話を話している。
「…神主さんがここに引っ越したのはいつなんですか?」
「?…わたしがここに引っ越したことを何故、ご存じで?」
「軽トラに、ロープと毛布が積まれています。恐らくは荷物を梱包した時のものでしょう。それにあなたの左手にある傷、カッターかなにかで切ったものでしょう?
…大方、荷物を開封するときに手を切った。
引っ越しした時も当ててみましょう。
軽トラについた土のつきようと、年季で…2、3年前くらいではないでしょうか。…どうですか?」
ポカンとした顔をした神主、突然我にかえったと思えば、パチパチと拍手をする。
「さすが、“刑事”さんですなあ、名探偵のようだ。」
「恐縮です。…最近はあまり頭は使いませんでしたが」
こういう田舎での調査には、魔王から資料と一緒に警察手帳を貸してもらえる。
国家権力は便利だ。田舎だと特に。
絵流田村についてから、神主のゴミ捨てを手伝い、軽トラを降りた。
捨てた毛布が毛だらけだったのかスーツについた毛を回収しておく。
ーーーーーーーーーー
聞き込み開始である。
畑と家しかない土地ではあるが、隠れ家としてはうってつけのところだ。しっかりと証言を集めていく。
「噂程度で」 「言い伝えで」 「ご神体が…」
「神社で目撃情報が」 「きもちが悪い」
「五人も同時にいなくなって」
「いなくなった子とよく仲良くしていた女の子がいて。」
ーーーーーこんなところか。
相当聞き込みをし、昼ごろになったのを確認して改めて神社に向かうーーー
「神社にいくの?」
…呼び止められる声をきき、後ろを振り替える。
ツインテールの女子高生。ツヤツヤとした黒髪をきれいに二つにわけ、ぱっちりとした目と、シャープな顔で、美人というよりは可愛い。といった“普通の女の子”
…………ふふん オレは騙されんぞ。どうせヴァンパイアかダンピールなんだろう。
と瞳を除くと紅くはなく、きれいな黒色。
……………………マジで?
え、本当に人?
思わず見惚れていると、その子はまた警告する。
「神社にいくのはやめてください。危ないから。」
「…どうして?」
「…その顔だと、忠告しても聞いてくれなさそうですね。」
「うん、仕事だしね。」といって手帳を出す。
ふーん、といって彼女はオレの前をてくてくと歩く。
「ついてきて、案内します。」
ーーーーーーーーーーーーーー
階段が意外と長い。神社にたどり着くまでに螺旋状になっており、結構な距離になっているようだ。道路は舗装されており、車でも通れそうなほどである。
そんな事を考えていると、何か変な音がする。
具体的には何か、ゾウのようにデカイなにかが近付いてくる、ずしん、ずしんという音。
そうして上を見ると、“ソレ”はいた
「ぼ……………………ぼ………………………」
白く、ぶよぶよした、赤ん坊のような、形。
図体はまんまゾウで、舗装された道路にミチミチと肉を挟みながら進んでいる。
無機質な目をぎょろりとこちら向けた瞬間、腰の銃を抜いた。
「ね、あぶな「危ねえ!!」
少女の手をつかんで引き寄せ、結果的に胸にしがみつくような形になってしまったが無視
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