この頃、身体の調子がおかしい。
私は天使だ。
天界に住まわれし神々より人間たちを導くという使命を与えられ、この地上に降り立った。
人々を導く、というのは神の御言葉を伝えたり、或いは地上に蔓延る魔物を退治したり、或いは善き行いをした人間に褒美を与える役割のことだ。
いずれも神々や他の誰かのための奉仕であり、それが天使の存在意義である。
私はこの地上に派遣されてから何年もの間、使命を果たし続けてきた。
私を温かく迎えてくれた教会の人々と歌を謡い祝福を授けたり。
勇者と呼ばれた歴戦の戦士に、神の造られた武具を授けたり。
ある時は、村を襲う巨大なドラゴン相手に単身で応戦して死にもの狂いで撃退したり。
魔物だけじゃなく、悪いことをする人間を懲らしめたことも何度か。
あと、無邪気な子供たちと遊んだりもしたっけ。
どれも楽しい日々であり、誇りある仕事だったと思う。
私は偉大なる神の代弁者で、主神教信者の人々からは尊敬されていて。
だから、“こんなこと”をするなんて、絶対にあってはならない、ハズなのに。
「ん……うっ……」
真夜中、町で最も大きな宿屋の一室に私はいた。
敬虔な主神教信者だった店主が快く泊めてくれたのだ。
畏れよりも、親愛のこもった眼差しで私を迎えてくれた。
そんな優しさと慈愛と信仰心の結晶みたいな場所で、あろうことか、この自分が――
「ァ――っ――!!」
自分の全てが呑み込まれてしまいそうな感覚の波に、思い切りシーツで口元を塞ぐ。
びくびくと体が痙攣する間、くぐもった吐息が自分の頭に反響している気がした。
股の間からは、ねっとりとした粘液が流れ続けて布団を汚している。
堪えきれない快楽と共に、どうして、という疑問が溢れて止まない。
どうして、天使であるはずの自分が、自慰なんかに目覚めてしまったのか。
きっかけはいつだったか、なんてもう覚えていないし知らない。
見当を付けるとすれば、たぶん魔物が人間の姿を象り始めたあたりだったと思う。
魔王がサキュバスへと代替わりし、多くの魔物がその在り方を変えたことは主神様から伝えられていた。
魔物たちは人間たちの命を奪う代わりに精を搾り取り、なんと伴侶として共に暮らすことにしたのだ。人間との共存を望んだこと、それは私たちにとっても衝撃だった。一見すれば世界は平和になったように見えたかもしれない。
でもそれは私たち天使にはけして容認できない、乱れきった在り方だった。
魔物は相変わらず人間を襲うし、殺しはしなくとも無理やり夫にするのだ。
それはもはや強姦に変わりない、許されざる大罪である。
さらに伴侶を得た後も、夫に交尾を強要或いは強要させつづけるのだという。
色に塗れた生活など言語道断。
当然ながら、主神様は魔物への対処は変わらず退治あるのみとされた。
私たちもそれに従って、今まで通り勇者には施しを、迷える人には導きを、魔物には制裁を与えて来た。
それを間違いだと思ったことなんてない。
けれど、少しだけ迷いが生まれたいたことは否定できない。
魔物は思ったよりも悪い性格をしている者は少なくて、それこそ過激派と呼ばれる組織くらいのものだったからだ。
むしろ熱心に愛を求める彼女たちと言葉を交わしたときには、少し共感を覚えてしまったくらいだ。
天使の中には善行を積んだ人物に、文字通り身をもって幸福を与える役割を持つ者もいる。
でも自分がそれを命じられることはなかったから。
そう、その一瞬だけならよかったはずなのに。
たぶん、きっとその時から、ほんの少しの綻びから、私の何かが変わり始めた。
天使は魔物じゃない。
根本的に違う存在なんだから、魔物をちょっと認めたくらいでは何も変わりはしないはず。
だから新しい魔王の影響なんて受けるはずがない。
何度そう言い聞かせても、体の疼きが止まってくれなかった。
気づけば、ソコに手が伸びていた。
今まで一度も触れたことのない場所。
なのに、ただ疼いているというだけでぐっしょりと衣服を濡らしている。
性交なんてしない天使には、こんな機能は必要ない。
人間を模した際に付いてきた勝手に付いてきた副産物だ。
だから私の体の中でも特に不要な器官――そう思っていたのに。
どうしようもなく欲しくなってしまった。
どうすればいいのかすぐに分かってしまった。
まるで生まれた時から刷り込まれていたみたいに、自然に指が秘所に導かれた。
くぷ、と水音に頬を赤らめながら、体の求めるままに中指を挿入し、くいと曲げ。
ただ、それだけでこわくなるくらいの気持ちよさが襲ってきた。
飛んでもいないのに全身が浮いたような感覚がして、頭の中が真っ白になって、体も勝手にびくび
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