・十三女がサハギンな場合


人の性格というものは実に様々だ。
活発な者もいれば、静かな者も。暴れっぽい者も、和やかな者も。
それは魔物も同じ。種族に囚われず、千差万別。当たり前のことだな。
うちの家では非常にハツラツとした騒がしくも賑やかな妹が多いのだが。
逆に、静かでマイペースな妹も勿論いるのである。

・〜ある日の朝〜


「起きてるか?スピネ」

「・・・・・・・・・すぅ・・・・・・すぅ」


静かに寝息を立てていることを確認し、足音を立てないようにベッドまで近づく。
綺麗な長髪も相まって、まるで人形のように可愛らしい寝姿だ。
布団がちょっとだけはだけており、水玉パジャマが目に映る。
ここまでなら普通の人間の子供と何ら変わりはないだろう。
袖から見える青く大きな水かき付きの手と耳ヒレがなければ。
そう、この妹の種族はサハギンだ。


「ほらほら、朝ですよ〜」フニフニ

「んっ・・・///」ピクッ、ピクッ

「ん〜」ナデナデ

「・・・ふぁ・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・///」


ほっぺをふにふに、頭をちょっと撫でてみる。
耳ヒレがピクンとくすぐったそうに揺れる。可愛い。
カスタといい、静かに寝ている子ほどちょっとイタズラしたくなるものだ。
だが、スピネの場合、ここで終わりではない。


「そら、そろそろ起きな」ポンポン

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・お〜い」グニグニ

「んみゅ・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・起きて〜、お願い起きてー」コショコショ

「・・・・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」


頭をポンポンしても、頬を左右に軽くつまんでみても、脇腹をくすぐってみても。
全く全然一向に起きる気配がない。
そう、スピネは妹の中でも1位2位を争うほどの寝ぼすけなのだ。
寝る子は育つとよく言ったもの。将来的には他の妹達に劣らない魅力的な姿へと成長することだろう。
・・・それでも今は起きて欲しいんだけど。


「起きなさーい」ユサユサ

「ほらー、気持ちのいい朝だぞ〜」ペシペシ

「おーい、スピネってばー」グワングワン









「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「ダメだこりゃ」


起きる気配が見られない。安心しきってしまっている。
この子ははたして野生でも生きられるのだろうか・・・外に放り出す気は更々ないけど。
そんな寝ぼすけさんにはお目覚めの儀式を・・・
あれ?冷水ないや。あぁ、バレスに使ったんだっけ。
しかし、スピネの場合はこれでも起きないから困りものである。
一度ジャイアントスイングをしてみたこともあったが、それでも起きなかった日もあるくらい。
起きない時は本当に起きない。そんな我が家の眠り姫なのだ。


「ん〜、どうしたものか・・・」

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「・・・ま、また後で起こせばいいか。たまにはゆっくり寝かせておくのも悪くない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「それじゃ、次のとこに・・・」ギュッ



「・・・・・・むにゃ・・・にぃ・・・」

「・・・おぉぅ・・・・・・」


やられた。袖を掴まれた。早々に手を引っ込めるべきだったか。
小さいとはいえ魔物娘。力は相当なもの。
無理に引き剥がそうとすると傷をつけてしまうかもしれない。
服が。
いや、服ぐらいどうってことないんだけど、後で質問攻めされて真実が明らかになるのは目に見えている。
その時、悲しんでしまうのはこのスピネだ。自分のせいで服が敗れてしまったとへこんでしまう。
優しい子だからな。


「あー、どうしたものか・・・」

「・・・・・・すぅ・・・・・・たくにぃ・・・・・・」ギュオッ

「おわっ!?」グイッ

「・・・・・・・・・・・・」

「お、起きたのか?スピネ・・・」












「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「まだ寝てんのかい」


いっそのこと上着だけ器用に脱いで退散しようかと考えついた矢先。
スピネに腕ごと掴まれて引っ張られてしまった。
だが起きている様子はない。寝ぼけて動いただけのようだ。
これじゃまるで、不思議の国にいるという眠りネズミだな・・・


「・・・かえって好都合かな」

「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」ギュゥ~~



「んん〜〜〜、よいしょぉぉっぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉおぉぉおお!!!」グリン



「・・・・・・すぅ・・・すぅ・・・」

「これで良し」


現在の状況を説明すると、スピネを俺の腕にしがみつかせているだけ・・・なのだが。
いつの間にか足まで腕に絡みつき、必死に落ちまいとしている体勢にもかかわらず、見事に寝たままだ。
器用すぎる。何か、こんな人形なかったっけ。
急に落ちそうになることにだけ気をつけ
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