前編


俺には幼馴染がいる。
家が隣で、誕生日は近いけど学年は一つ上の女の子。
容姿端麗、学業優秀、才色兼備、品行方正・・・
そんな四字熟語がズラリと並ぶであろう、完璧を絵に描いたような幼馴染がいる。

家が近かったこともあり、それなりに仲は良かった・・・と、普通ならば思うだろう。
でも現実はそうはいかない。小学校こそ同じだったが、声をかけても素っ気ない態度。
他のクラスメイトより接する機会は多かったとは思うが、相手になんてされなかった。
無表情を貫き、笑顔に至っては一度も見たことがない。
一言でいうなら『クールビューティー』。付いたあだ名が『氷の姫』。
そんな感じの、ただ家が近いだけの女の子であった。


小学生の頃の俺は、彼女のことが気になってしょうがなかった。
そりゃ、近所に綺麗な子がいるんだから、男としては気にしない方がおかしいってもんだ。
綺麗なのは当たり前。なぜなら彼女は『魔物娘』という存在であったから。
加えて頭も良くて、身なりもちゃんとしている所謂お嬢様であったから、それはもうモテたモテた。
勿論告白する奴だっていた。上級生も下級生も、彼女に夢中になる奴は多かった。
でも、結果は男側の惨敗。誰ひとりとして、彼女の心を動かす奴なんていなかったのだ。

その時の俺は、堂々とした怖いもの知らずのワンパク坊主・・・というのが建て前。
本当は、プライドだけは一人前の、好きな女の子に告白もできないようなヘタレだった。
何度も彼女を遊びに誘ったが、断られる。挨拶してもこっちは見ない。会話なんかは続かない。
振り返ってみると、よくもまああんなに熱心になれたもんだと感心するよ。
誕生日が近かったこともあって、学年が違くても気軽に話しかけてたなぁ。
読書にふける彼女の近くに勝手に座って本を読んだり、一人静かでいるところにちょっかい出したり。
幼馴染という特権を使って、何だかんだで近くにはいたと思う。
反応こそ冷たかったが、割と楽しかった。それだけで十分だったんだ。


中学生になる頃には、別々の学校になっていた。
頭の出来も違うからな。彼女は有名な進学校で、俺は普通の一般校。
小学校の卒業に合わせて、それからは彼女との接点もめっきり減ってしまった。
お隣さんだから、たまに見かけるってくらい。そのくらいまでに減っていた。
俺が勇気を出して、「お前のことが好きなんだ!」と熱い告白をぶつけられていたのなら。
好きな子に好きだと言えないヘタレでなかったのなら。
俺の中学生生活はいくらか変わっていたのだろうが、今はもう確かめる手段も術もない。
別に、悲惨な中学3年間を過ごしたわけではないし、彼女がいない生活でも十分に充実していたはずだ。
性格もワンパクから冷静さが生まれ、流行にチャラついた中学男子になっていた。
友達も普通にいたし、女子からもそれなりにモテた。
勉強はそれなり、部活はスポーツに打ち込み、自由に楽しく毎日を過ごしていた。
それでも、気になる異性。一般的に言う『カノジョ』ができなかったのは、俺がどこかで彼女のことを忘れられずにいたからなのかもしれない。




そんな俺は今や高校生。
試しにと受けてみた、家から近めのちょっと高めの偏差値の学校を受験し、それにめでたく受かった高校生だ。
ただ、一つ予想外だったのは・・・


その幼馴染が同じ学校で、俺が幼馴染の率いる生徒会に、会長権限で半強制的に生徒会庶務として務めることになったことだろうか。


「・・・何こっちを見ているの?仕事は終わったのかしら?」

「お、おう・・・悪い」


俺が何故、そんな幼馴染のことを振り返っているのかというと。
今いるこの状況の原因がなんなのかを探り、自分を必死に納得させようとしているからだったに違いない。

入学当初、輝かしく自由な高校生活が待っているはずだった俺の気持ちは、この目の前にいるグラキエスの幼馴染『雹ヶ峰夕雪(ひょうがみね ゆき)』に見事粉砕されてしまった。
正直、生徒会とか中学の時にもあったけど、俺はそんな面倒な役割を引き受けるつもりはなかった。
自由に楽しく毎日を生きる。それが俺のモットーである。
だが俺は、面倒くさくて仕方ない生徒会の雑務を、先輩で生徒会長な幼馴染の命令によってこなさないといけない状況にある。
そんな状況に対して、勿論少なからずの怒りも含まれているのだが、俺が感じているのはひと呼吸どころか数日くらい心の整理の時間が欲しくなるほどの『戸惑い』と。




「こちらを見ている暇があるのなら、さっさと仕事を終わらせなさい。見られてるとテンションあがっちゃうから」




彼女の言動の端々から感じざるを得ない圧倒的『違和感』である。





・―・―・―・―・





「はぁー・・・」

「おうどうしたひばりーん。ため息なん
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