・十一女がワイバーンな場合



下の方の妹にもなると、まだまだやんちゃでわんぱく盛り。
忙しいのに、あの手この手で絡もうとしてくる。
ちゃんと構ってあげているつもりなんだけれど、まだまだそれでも足りないんだろうなぁ。
子供なら力がないから何とかなるだろ、とか普通の人は思うだろうけど。
魔物の種族によっては、そんなことも関係なくなってしまうのだよ。

・〜ある日の朝〜


「おーい、朝だぞー」

「・・・・・・くぴー・・・ひゅかー・・・」


あらら。
布団が裏表逆だよ。器用なもんだなぁ・・・
枕も抱きしめるようにして寝ているから、枕としての機能を果たしていない。
今度、抱き枕買ってあげようかな?
でも抱きしめているものは、腕じゃなくて翼だから・・・
普通の枕じゃ、抱き心地が悪いだろう。
自分のお古の服で抱き枕でも作ることにするか。

そんなことを考えながらも、未だに目の前で眠り続けるこの妹は。
腕が翼の魔物娘。ハーピーでもセイレーンでもコカトリスでもない。
ワイバーンの妹である。


「朝だぞー、チェロー」ナデナデ

「・・・んにぃ・・・にへへ///」


気持ちよさそーに寝ているなぁ・・・
本当に羨ましいねぇ・・・
これだけ嬉しそうな顔で寝られたらさぞ幸せだろう。
それを邪魔するというのは、少し心が痛くなる。
だが起きてもらわねばこちらが困るのだ。


「そーれっ」バサリ

「・・・うみゅ・・・さみゅぃぃ・・・・・・」


布団ひっぺがし。
子供を起こすお母さんがよくやるアレである。
暑い季節にやるとそこまでの効果はないが、布団が気持ちいいと感じる寒い季節では効果テキメンだ。
強いドラゴン種も一応爬虫類型。寒さは苦手みたいだからね。・・・少なくとも我が家の妹達は。
まあそれを抜いても、あの温もりは離れがたい魔力が宿っていると、俺は思う。


「・・・うにぃ・・・あんちゃん・・・?」

「おーう、おはよう」


どうやらようやくチェロの目が覚めてきたみたいだ。
下の妹になると、すんなり起きる子はあまりいない。いるにはいるけど。
寝ぼすけが多いのだ。上の妹達も含めて。
でも寝る子は育つとよく言うし、悪いことじゃないしな。
・・・事実、目の前の妹の発育は良すぎる方だよ。
さて、『あれ』に備えて、しっかり構えないとな・・・


「あんちゃん・・・・・・」

「うん、よし・・・!」







「・・・あんちゃんだーーー!!(≧∇≦)
#9829;」


ドゴフッ!!


「ぐへぅっ・・・!!」




そう。
ワイバーンの妹、チェロは毎朝寝起き時に飛びかかってくるのだ。
その初速は寝起きながらに早く、体に襲い掛かる衝撃も少なくない。
言ってしまえば一方的な『ぶちかまし』である。
両腕の翼による推進力と、尻尾ぶんぶんによる回転力が加わり、それはもう凄まじい威力。
しっかりと構えて足を踏みしめていないと、俺は壁面に叩きつけられることになるわけだ。
毎朝恒例の行司・・・いや行事ではあるが、最初の頃はその勢いに敗北していた時もあった。
家事で鍛えられた身体に感謝しているよ。
チェロの方も手加減を覚えたみたいだしな。
それでもまあ、毎回肺から掠れた息が漏れるのだが。


「あんちゃん!あんちゃーん!!
#9829;」グリグリ~

「・・・けほ、お、おはようチェロ。今日も元気だな」

「あんちゃんの顔を見ればわたしは元気百倍!やる気マンマンだよ!」

「うむうむ。チェロが元気で何よりだよ」


チェロは妹達の中でも一番元気がいい。
活発的なケンタウロスのベルより活発的だし。
やんちゃなオーガのバレスよりやんちゃだし。
でも素直で純粋だから、昔のバレスに比べれば全然マシなんだけども。
可愛いもんだよ、全く。
あと・・・もしチェロの『やる気マンマン』を頭の中で変な言葉に置き換えた奴。
お兄さん怒らないから前に出てきなさい。
大丈夫、泣くまで殴るだけだから。決して怒っていないから。


「えへへー、ぎゅーーっ!!」ギュゥゥ・・・

「ほらほら、起きたのなら顔を洗ってきなさいな。俺はまだやることあるんだから」

「うん!分かった!それじゃあまた後であんちゃんパワーをホジューするからね!」

「何その謎パワー。よく分からんが、あんまり忙しくない時に補充してくれよ?」

「はーいっ!じゃーねー!」

「さて、と・・・ああっと、廊下はあんま飛ぶなよ。前にも・・・もう行ったか」


動き回る様はまるで小さな嵐のようだ。
実際に竜化して飛び回れば、本当に嵐も起こるのかもしれないが。
・・・実行しないことを祈るだけだな。
さてと、次の妹はっと・・・






(えっへっへ〜!あんちゃんに朝ぐりぐりぎゅ〜できたっ!
ラブラブあんちゃんパワーで今日もたくさんがんばろぉーっと!
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