宝物:修理屋と竜

一体誰がこんな状況を予測しただろうか。

今まで、ずっと何もなかったのに。
まるで嵐のように、いつも自分は巻き込まれる。
何でこんな、図ったように突然に。
反魔物領の騎士団長が、魔物のいる家を訪れるんだよっ・・・!


「・・・一体、何のことでしょうか?」

「隠さなくてもいい。分かりきっていることだからな」


どうやら言い訳の時間さえくれないようだ。
問答など無用と言わんばかりに、騎士団長の眼は自分を威圧してくる。
威圧感は、その見た目からも感じ取れる。
重厚な白鎧に身を包み、腰にはふた振りの剣。
教団の紋章が胸に刻まれており、まさしく聖騎士。
兜は付けておらず、この国では珍しい黒髪が印象的な男性だった。
魔物から人を守る、騎士の姿だった。


畜生。ああ畜生。折角、両想いになれたっていうのに。
これからが新しい日々の始まりだなんて思っていたのに。
どうして、こんな・・・
こんなのって、ありなのかよっ・・・!!


・・・当たり前なのか。
この反魔物領で、魔物に手を貸したんだ。
こうなることは、必然だったんだ。
いつこうなってもおかしくなかったんだ。
それが、この半年・・・何もないことが当たり前だと思っていた。
そう思い込んでいた、自分のミスなんだ。
でも、せめて・・・
叶うのならば。
こんな自分でも、願いを言っていいのならっ・・・


「お願いが、あります・・・」

「何だ?」

「彼女だけは・・・そのドラゴンだけは、殺さないでください・・・!」


自分にできることは、懇願だけだった。
情けないことなのかもしれないが、力のない自分には、こんなことしかできない。
答えなんて、分かりきってはいるが。でもこのまま終わる訳がない。
こうなれば、最後まで抵抗してやる。
これが自分の運命だっていうのなら、最後まで抗ってやる。
自分がどうなろうと、彼女だけは守りきる。
それが自分の・・・
彼女のことを愛する自分の・・・!
この反魔の地で、魔物と結ばれるということのっ!
覚悟だから・・・!!










「ああ、分かった」

「・・・はへ?」











え?今なんて言った?
分かったって言った?
すごく、あっさり言わなかった?
てっきり自分、「貴様も同じ道を辿るのだ・・・」とか、「魔の道に堕ちた者は同罪」とか言われて、その場で切り捨てられるんじゃないかって思っていたんだけど?
・・・いや!相手の言うことを信じちゃイカン!鵜呑みにしちゃイカンよな!
油断させた隙に、二人諸共殺されるのかもしれないんだからな!


「で、でも」

「騎士の誇りにかけて誓おう。私は手を出さんよ。
そもそも君に手を出すつもりもない。
・・・ああ、別に他に部下がいるとかではないから安心してくれっ。
私一人の意思での用件だからな。
むしろ部下に見つかると不味い。非常に不味い。
先程も言ったが、あまり時間がない・・・朝の訓練には間に合わさねば。
ここにいることも、誰かに見られてしまうと不味い。とても良くない。
私が困るし、君たちも困る。
と、いうことで店内で話の続きをしてもいいだろうかっ?」






「え、あ・・・はい」




ちょっと早口気味の説明に気圧されて。
この人の、人柄なのか何なのかは分からないけれど。
自分はすっかり毒気が抜かれて、店の中へと入れてしまった。
なんて言えばいいのか、その。
この人、悪い人じゃないんじゃないか?って。
別に、命を取りに来たんじゃないんじゃないか?って。

信頼できる人なんじゃないかって。
初めて顔を合わせたばかりだけど、不思議とそう思ったんだ。





・・・・・





「あの、これ、シチューですが・・・」

「ん?おお、ありがとう。すまないな。
朝食もまだだから助かるよ。訓練に支障が出てしまうからね」


普通、この場合お茶とか出すんだろうけれども。
丁度すぐ用意できるものがさっきまで温め直していたシチューだったから、出しちゃったけども・・・
意外にも好評だった。

現在、店の扉には鍵をかけ、誰にも入られない密閉状態。
誰かが突然入ってくることはない。
もし増援を用意していたとしても、少しは時間稼ぎもできるだろう。
逃げるときは、裏口から逃げればいい。
だが、そんな予想と反して。
店内に用意してある椅子に、純白の鎧を着た騎士団長が、スプーン片手にシチューを懸命に食べているという、シュールな光景が目の前に広がっていた。


「うむ!美味いなぁ!たまにはこういう家庭の味というのもいいもんだ」

「そ、それはどうも」


うん。この人一体何しに来たんだろう。
そんな考えが頭に浮かぶくらいには、気が抜けていた。
警戒するのが馬鹿らしい程に、この人はあっさりしている。
騎士団長って、強くて厳しいけれど
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