勇気:最後の部品


「んぅ・・・ちゅぅ
#9829; じゅる、ちゅぷ、れろぉ♪んぷ、ちゅるぅ
#9829;」


抵抗の言葉もかけられないまま、自分は唇を奪われた。
情熱的で濃厚な、貪るようなキス。突然のことだったので、なすがままに口の中を蹂躙されていた。
自分の頭の中は、全力で今の状況を整理しようと、無駄に混乱していた。
・・・あれぇ?自分今、頂かれるって言われたよね?
え?何?そういう意味なの?でもドラゴンって自分からはしないんじゃなかったっけ?
あれ、確か大分前にリオンに『精々喰われんように』なんて言われた気がするけども。
それってこういう意味だったの?てかリオンこうなるって知ってたの!?
そもそも何でこんないきなり!?
脈絡何もなかったじゃん。今までそんな雰囲気全くなかったじゃない。
確かにエロ本探された時はあったけどもさ。それ単純な好奇心だったじゃない。
こんな展開になる要素、今までになかったよなぁ?
それともあれかい?最初にいい思いだけちょっとさせて油断させて頭からがぶりってことかい?
でも前に軽く目を通した禁書にはさ。魔物は人を食べないとかそんな記述あったっけ。あれなかったっけ?
記憶違い?あ、でもドラゴンは例外とか?ありそうな、なさそうな?
もう何がなんだか分かんないよ。キスが気持ちいいせいで余計に頭が回んないよ。
っていつまでキスしてるのですかねシエルサン。・・・シエルさん?自分ちょっと苦しいよ!?
そろそろ息継ぎ欲しいよ!?長いよ!?死んじゃうよ!?
限界なんだよ!?多分顔青くなり始めてるよ!?赤面混じってきっと紫になってるよぉ!?


「じゅる、あむ、んちゅぅ・・・
#9829; はぷ、んにゅ、くちゅ♪」

「んぐっ・・・んー、んー!・・・んんんーーー!!」

「んぅ?んん
#9829;・・・ぷはぁっ・・・どうしたのだ?アイレン
#9829;」

「ぜぇー、はぁー・・・ふぅ、いやね、息できなくってね・・・」

「そうか。では続きを」
「待って!こっちから何か言わせて!?まずあれだよ、どうしたってのはこっちの台詞だよ!?」


間髪入れずに押し寄せる接吻を防ぐ。・・・防いだ手を舐められたけれど。
むぅ、と少し嫌そうな顔をしているシエル。でもそれは一瞬で、お構いなしに手を舐めている。
これではまるで、甘えてくる犬のようだ。
一体シエルに何があったのか。自分はだんだん気持ちよくなる手の感触に耐えながらも、彼女の答えを待っていた。
満足そうに手を舐め終えた後、漸く彼女は口を開いた。


「ぺろぉ・・・んぅ、どうしたもこうしたもない。私は魔物だ。こうなることは、少なからず分かっていたのではないのか?」

「最初魔物について調べた時は、ちょっと思ったよ。でもそれ以上に信頼していたし・・・
何より半年も顔見せていて何もなかったんだから、その気はないって思うだろう!?」

「半年・・・そうか半年も経っていたのか。初めて会った時はさらに三ヶ月前・・・
私も随分と勿体無いことをしていたものだ」

「それに・・・君はドラゴンだろう?確か、ええと・・・そうだ思い出した。自分より強いオス・・・男性を認めるんじゃなかったか?」


魔物のことについて、ある程度の知識はあの図書館で得たはず。
まがい物、ということはあのリオンの本だということもあって有り得ない。
知識としては正しいはずだ。・・・記憶としては微妙なとこだけど。
ドラゴンは自分を倒した男性を本能的に夫と認める、とか。
自分はシエルに勝った覚えもないし、勝てる見込みもない。
それ以外には、気に入られた場合とかだったっけ?
でもそれなら、何故今なんだ?もっと早くに襲われててもいいはずだ。
・・・流石にそれは自惚れ過ぎだと思うけれど、他に説明がつかない。
そもそも、シエルは以前から負けている場面があったはず。
翼を切られた時とか、深い傷を負わされた時とか。本当ならその時に本能が働くはず。
だから、シエルは他のドラゴンとは違うものだと思っていた。
例外的な何かだと思っていたんだが・・・


「ああそうだ。私達ドラゴンは、己を負かした強者の妻となる本能を持つ。
・・・だが、私は今までに負けたことがなかったのだ」

「えっ!?いやでも、それは・・・」

「確かに、敗北と思われる場面に遭遇したことはある。しかし、私は逃げたのだ。
負けたという事実から。勝負という状況から。逃げ続けていた。
だから私の本能は、負けを知らなかったのだな。でも・・・今は違う」

「違う?違うって何が?」

「私は、生まれてから今この時までのことを思い返した。
アイレン、お前を救えた時から、ずっとだ。・・・帰路で適当な返事をしてすまなかったな。
そのおかげで、今までよく分からなかった己のことが、手に取るように分かる。
私は、やっと
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