「これが・・・翼、か・・・?」
シエルは、自分が持ってきた翼に対して怪訝な顔をしていた。
無理もない。
だって、自分が用意したものは、一目見ても翼と呼べるかどうか怪しい品物だったのだから。
簡単に言えば、竜の翼の骨格を模したパイプのような棒きれを付け合せ、間にひらひらの薄い膜が張っているだけの、翼と呼ぶにはあまりにも滑稽なものだった。
こんなものを背中につけることなどみっともないとさえ思うだろう。
「まあ、そんな顔するのも分かるよ。あくまでも試作中の試作で、まだ空が飛べる・・・
いや、宙に浮くようなものですらないからね。君が翼を動かす感覚を確かめるためのものさ」
「そう、か・・・」
彼女の表情は、明らかにがっかりとした表情をしていたと思う。
思っていたものとかけ離れていて拍子抜けした、と言った方が正しいのかもしれない。
何とも言えぬ顔をしていた。
果たしてこんなものが動くのか?これがいずれ翼になるのか?
そんなことさえ考えていそうな、疑問符を大量に浮かべた顔だった。
「・・・何か、上げて落とす形になってごめんな、うん。タイミング、悪かったよ。絶対」
「い、いやいや!そんなことはないぞ!?
むしろ私の懐中時計と並行して進められていたことに驚いているくらいだからなっ!」
慌てて誤魔化そうとしているけれど、明らかに落胆していたもの。
こんな粗末なものを翼と呼んで見せたら、そんな顔するだろうなとは予想していたけどさ。
勿論もう少し時間をかければ、少なくとも今よりも翼っぽくは出来たかもしれない。
その方がよりサプライズにもなっただろう。
でも、この段階で彼女にこれを見せた理由もちゃんとある。
「言いたいことは、まあ色々あるだろうけどさ」
「べ、別に文句なんてないぞっ!?何もないからな!」
「翼は、ちゃんと『二人で』直していくって、言ったからな」
「あっ・・・」
三週間前、彼女は不安を打ち明けた。
そして、『私を置いてけぼりにしないでくれ』と言った。
彼女の翼は自分一人だけで直すものでも直せるものでもないんだ。
自分と彼女が望んだ約束通りに、同じスタートラインから始めたかった。
それが理由だ。
「シエルには、まず最初にこれを付けて動かしてもらって、その感覚を教えて欲しい。
それに、これから翼をうまく使うようにするためのリハビリでもある。
こんなものでも、ちゃんと役に立つんだよ。・・・それでも無理強いはしないけど」
ガラクタを身につけるなんて、流石にドラゴンの沽券に関わるよな・・・
そう思っていると、向こうから意外な申し出を受けた。
「なぁ、アイレン。今ここで付けてみてもいいか?」
「え?そりゃもちろんいいけれど・・・また何で?」
「何でだと?勧めておいておかしなことを聞くのだな。
翼を直すのに必要なことなのだろう?付けない理由が無いではないか。
それに以前、お前に全面協力するとも言ったのだ。何故逆らう必要がある」
まさか、自分からつけてもいいかなんて言われるとは思ってなかった。
どうやらすでに決意は固まっていたみたい。
理由があることを聞いて、納得していたんだな。
・・・どうやって装着させるよう説得しようか悩んでいた自分は何だったのか。
それはともかく、願ってもない申し出だった。
「それもそうか。分かった、それじゃあ装着てみてくれ」
「では、付け方を教えてくれ。どう付けるのか分からん」
「あぁ、そうだよね。えっと、ちょっとごめんね。
このハーネスを肩にかけて・・・翼の位置を合わせて・・・
うん、これで良し。後は翼があるように体を動かしてみて・・・
多分、そう、ここの筋肉らへん・・・
・・・ちょっとピリッとしたら言ってね」
「ぴ、ぴりっとするのか・・・?」
「もしそうだったらね。
翼の接合部分に、筋肉の動きと神経の伝達に反応する細工がしてあるから・・・
一応雷属性の魔力も通してあるし・・・もしかしたらするかも」
「う、うむ。ではいくぞ」
戸惑う彼女に翼を付けつつも、軽く説明をする。
そして彼女はこちらの指示の通りに、翼を動かそうとし始めた。
でも、難しい顔をしながら力を込めても、翼は思うようには動いてくれなかった。
ぱた、ぱた、とぎこちない動きを見せる。
「む・・・このっ・・・ぬぐぅっ・・・!」
「ああっ、無理に動かそうとしなくていいんだよ!
もっと自然な感じで。余計な力を抜いてやってみて」
「そうは言うが・・・中々に難しい注文をするのだな」
「前にも言ったでしょ?苦労させることになるって」
「全く・・・そうだった、なっ・・・!」
ぐいっと彼女が力を込めると、翼が大きく外に動いた。
まるで遠心力だけで腕を大きく振り回したよう
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