約束:空を翔るその姿を




翼を直す。



一言で表すのは簡単だが、そんなあっさりとした一言で済む内容ではないことは分かっている。
彼女に対して、苦痛な現実を突きつける言葉であることも、分かっている。
だけど、自分はそれを伝えずにはいられなかった。


「・・・『なおす』だと?お前には私の翼を生やす薬でも作るとでも言うのか?」


彼女の瞳には、まるで信じられないといった疑惑と人に馬鹿にされたような怒りが宿っているようにも見えた。
それはそうだろう。
自分は、常識で考えればそれだけふざけた部類の言葉を述べたのだ。
ちょっと変わった懐中時計を直すのとは訳が違う。
自分が同情や慰めで、気休めを言ったのだと思っても無理はない。


「そんな薬は無理だけど・・・でも『直す』よ。自分のやり方で」


でも自分は本気だ。
冗談とか、嘘とか、気休めなんかじゃあ決してない。
本当に本気で、自分は彼女に翼をあげようと思っていた。
そんな自分の様子を見て、彼女にも自分が大真面目にそう言っているということが伝わったようだった。


「・・・一体、どうするつもりなのだ?修理屋」


「うん。自分は、修理屋だ。
医者や魔術師でも何でもない。ただのしがない修理屋だ。
だから、元通りに『治す』なんてことはできない。
それどころか、元の構造が分かってないと『直す』こともできない。

でもね。

構造さえ分かっていれば、元がなくとも『作り直す』ことができる仕事なんだよ」




「作り直す・・・?ものがなくとも・・・・・・っ!?
ま、まさか・・・修理屋、お前・・・・・・!




私の翼を、『一から創り出す』つもりなのかっ・・・!?」




自分は黙って頷いた。
どうやら彼女は、自分が言わんとしていることを理解したみたいだ。

翼を作る。
それも、元々あるものからではなく、一から。
自分がやろうとしていることは、まさにそれだ。

自分が作った翼で。
自分が『直した』翼で。
本物には取るに足ることがない、仮物の翼で。
彼女を空に戻してあげようというのが、自分の思いであり。
それが、自分の我が儘だった。


「修理屋は・・・それができるのか?・・・もしや、作ったことがあるというのか?」


「それはね・・・








分かんない」


「・・・なぁっ!?」


「だってさ。ドラゴンなんて、自分も昨日今日初めて見たんだ。
その翼を作ったことなんてある訳がない。
だから、必ずできる保証はどこにもない。
でも方法はある。
本からでも何でも調べて、翼の形を作って。
動いて飛べるようにして、君に取り付けられるようにすればいい」


「ず、随分あっさり簡単に言ってはいるが・・・そんな簡単なことでは無いだろう」


確かにその通りだ。
文面上は簡潔でも、やってのけるのは遥かに難しい。
だって、翼を作るなんて話は今まで聞いたことがないのだから。
現実にないのだから、現実にできるかどうかなんて今は想像がつかない。
でも、そんなことは初めてじゃない。


「実を言うと、普段の仕事とやってることはそこまで変わってないんだ」


「・・・? どういうことだ?」


「自分は今まで、直せる物だけを直してきた訳じゃないんだよ。
仕事を始めた頃なんて、直せる物の方が少なかったんだから。
何度も何度も失敗して、試行錯誤して、やり直して、作り直して、直して。
一生懸命ただガムシャラにやってたっけ。何度も何度も繰り返して。
今回も、そういう意味では変わんないってだけ。ただ、今まで誰もやったことがないってだけ。
他の人の前例がない。たったそれだけのことなんだ」


「それだけって・・・」


「そのたったそれだけ、が・・・どれだけ難しいのかも分かってる。
今までの例がない分、時間もお金もどれくらいかかるか分からない。

それでも・・・完成が見えないほどじゃない。

必要なものさえあれば、辿り着ける。
自分はそう思っている。間違いなく。
でも、勿論君にも協力してもらわなきゃならない。
翼をどういう風に動かしてたのかも聞くし、試作品を試してもらったりとかもする。
君にとっても、苦しくてつらいことになるかもしれないけれど・・・
そんな遠慮や妥協もない、完全なハンドメイドになるだろうな。

だから、君次第なんだよ」


「私、次第・・・?」


「君は、もう一度空を飛びたいと思うのかな?
どれほどの道になるか、保証も成功も分からない。
別に翼がなくても今のところ支障はないみたいだし、無理に合わせる必要なんてない。



それでも、空に戻りたいと思うのかな?」




自分だけがやる気に満ち溢れていたとしても。
どれだけ時間やお金や経験があったとしても。
彼女が首を縦に振らない限り始まることはない。
自分は、彼女の・・・依
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