吸血鬼の過ごした半月。

私は旅のヴァンパイア。
ヴァンパイアが旅をするなど、奇妙なことだと思われるかもしれないが私はそうだ。
私は自分にぴったりの屋敷を探していた。これは、お母様の命令だ。

『貴女に似合う屋敷と、旦那を探してきなさい』

そう言われて、私は生まれ育った家を出たのだ。


だが私は追われていた。下劣な教団の犬に。
興味本位で反魔物領に立ち入ろうとした時、運悪く遠征帰りの教団の勇者に見つかってしまった。
迂闊だった。完璧な変装だと思ったのに、最近の犬はどうやら鼻が利くようだ。
戦闘を試みたが、相手は恐ろしく強かった。もう少し戦っていたら、私は今頃・・・
何とか山に登り、追っ手を撒くことはできたようだが・・・
くっ・・・体が悲鳴を上げている。
もう、動きそうにない。陽も昇ってきたようだ。
私の旅は、これまでなのか・・・





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目が覚めると、目の前には天井。
気を失っている間に、私は何処かへ運ばれていた。
そして私は縛られていた。
どうやら私は目の前の男に捕らえられたらしい。

奴は呑気に、おはようさん、随分眠ってやがったなぁ、などとのたまわった。
何とか縛られている手を解こうとするが、縄は一向にちぎれてはくれない。
うまく力も入らない。奴が何か、私に手を加えたのか?


奴は、この縄が銀の縄だという。
熊が引っ張っても引きちぎれないというが、別に私は熊より強い。
やはりこの怪我が原因か・・・
ふと、体の方へ目を向けると。


私は服を着ていなかった。
おそらく、この男に脱がされたのだろう。何と下劣な男だ。
私をどうするつもりだと言うと、下衆な笑みを浮かべ、私の身体をなでるように触っていく。
やはり中身まで卑劣なようだ。傷が染みる・・・






染みる?どうやら何かを塗られているようだった。

一体貴様は何をしている?
私はそう尋ねずにはいられなかった。
聞けば、私の体はボロボロで、ただ薬を塗ってるだけだという。
ふん。表面ではそんなことを言っているが、本心ではどうだかな。
体も何やら熱くなっていく。媚薬か何かじゃないのか?


・・・普通の傷薬だそうだ。
いや、奴の言うことを鵜呑みにしてはいけない。嘘を言っている可能性だってあるのだ。
現に手を縛ってまで私を治療しようとする義理なんてないはず。
きっとこの男には裏がある。
そう思った私は、本来ならば口も聞きたくない男と何度か問答をする。


しかし、帰ってくる答えは文句と正論が入り混じったものであった。
服を脱がしたのは傷に薬を塗るため。
手を縛ったのは私がこの男に襲いかかることを危惧したため。
放っておかなかったのは、私が教団に見つかる方が面倒であるため。
男の目は真剣そのもの。巫山戯た様子は一切無い。
私は男の答えに返すことができなかった。


そうこうしているうちに、どうやら薬が塗り終わったようだ。
最初は染みたが、徐々に痛みが楽になっていく。
本当に良い薬のようだな。
だが問題はまだある。
この男は一体この状態でどうやって私に服を着させるつもりだろうか?
私は着替えが一人でできない歳ではない。服さえ貰えれば勝手に着る。
・・・手さえ縛られてなかったらな。
しかし、ここまでして貰ってこの男を襲うなど、ありはしない。


私はそこらの発情魔物とは違う。襲うなど、こちらから願い下げだ。
それにこの状態では着させることも無理だろう?
そう伝えても、男は翼をどかしてじっとしていろ、と言う。
全く、一体何だというのだ。


すると、私の体が光で包まれ、一瞬にして私は服を着させられていた。
何が起こったのか全く分からなかった。
服の内側には、ご丁寧に包帯まで巻いてある状態だった。
・・・マミーにでもなった気分だな。


今、何をした?
尋ねると、ただの魔法だという。
馬鹿な。転移魔法は最上級魔法。
それにこんな正確で繊細な操作ができるとは。
ただの猟師にできる芸当を遥かに超えている。


問い詰めても、余計な詮索はするなと一言で締められてしまった。
・・・そんなことを言われると、尚更気になってしまうじゃないか。
私はこの男に、僅かながら興味が湧いた。
だがもう少し寝ていろ、とブランケットをかけられてしまい、それ以上は何も聞けなかった。
油断してはいけない。
そう警戒しつつも、私はブランケットの暖かさに目蓋を重くし、そのまま深い眠りへとついていった。





・・・・・





起きろ、と声をかけられ目が覚める。
折角気持ちよく寝ていたというのに。
私の睡眠の邪魔をするとは、全くもって許しがたい男だ。


聞くと、食事の用意ができたようだ。
今の私
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