鉄壁の騎士と柔軟な鍛冶屋。


街の訓練場となっている場所から、金属のぶつけ合う音が鳴り響く。
ここでは今、鎧に身を包んだ騎士たちが一対一で模擬試合を行っている。
金属の奏でる鋭く高い音は、辺り一帯に緊張感を漂わせていた。


「そこまで」


私は自慢の双戦斧を構え、そこに立っていた。
眼前には倒れこむ一人の騎士団員の姿。
周りには私とその団員を見守る騎士たち。
そう、今まさに一つの模擬試合の決着がついたところであった。


「勝者、ベルテ・フランシスカ副団長!」
「流石副団長!お見事です!」
「いやぁ惚れ惚れしちゃいますね!」
「俺も副団長のように強くならねぇと・・・!」
「『鉄壁』の異名は伊達じゃありません!」


私は部下である団員たちから喝采を浴びていた。
結果は聞いての通り私の勝利だ。
今この騎士団の中で、私に勝てる者は団長くらいだろう。
自慢するつもりはないが、少なくとも実力者であることは自負している。


「惜しかったな。私でよければいつでも相手になってやる」

「はい!ありがとうございます!」

「お前たちも、鍛錬に励むがいい」

『はいっ!!』


闘志と気炎に包まれて、訓練の時間は過ぎていく。
これが反魔物国家都市『マレス』の誇る騎士団。
対魔騎士団ディアレスの日常である。





「副団長、お綺麗だよなー。しかも若いし」

「白くて長い髪に、凛々しい顔つき・・・カッコイイよねぇ・・・」

「でも、体の方は絶壁だよなー」ボソ



「そこの貴様、前にでろ。相手をしてやる」

「え?い、いえ俺は別に」

「直々に相手をしてやるんだ。光栄に思うがいい」ガシィ

「え、ちょ、待っっ!?

アッー!!!」



(無茶しやがって・・・)
(あいつ、死んだな)
(余計なこと言わなきゃいいのに・・・)





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訓練後、私はある場所へ向かっていた。
この都市の数ある店の一つである鍛冶屋。
私の行きつけの武器屋だ。

私は武器を眺めることが好きだ。趣味と言っても良い。
使っている武器は双戦斧だが、使えなくとも良い武器は見ているだけで気分が良い。
だからこの鍛冶屋に来ることが、最早日課になっている。
今日は他にも理由があるがな。


「邪魔するぞ」


店の中へ入ると、奥の方から金属を叩く音が耳に入る。
どうやら作業中だったようだな。
幸い時間はあるから、少々待つことにする。
店内を見渡せば夥しい数の武器が並んでおり、樽へ無造作に突っ込まれた品もいくつかある。
決して出来が悪いわけではない。むしろそこらの武器屋より良い物がほとんどだ。
だかここの鍛冶師にとっては何ら変わらない、一つの品だという。
一体何を考えているのやら。


「ふぃー、さて一息・・・て、あら?」

「邪魔しているぞ」

「あらー。もしかして待ってました?すまないっすね、ベルテさん」


何とも間の抜けた声だが、彼こそがこの店の店主であり鍛冶師。
彼の名は『シース・フォールディン』。
鍛冶師というのに年齢も若く、私とそう対して変わらない。
つかみどころのない奴ではあるが、腕は本物だ。
私の愛用武器である双戦斧も、この店で作られた物である。


「頼んでいた武器を取りに来た。良いだろうか?」

「構わないっすよ。丁度昨日終わったとこですし」


彼には武器の手入れを頼んでいた。
長く使っていたので少し傷んでいたところがあり、相談しに持ちかけたところ格安で整備を請け負ってくれたのだ。
仕事も早いので、何時魔物の襲撃や討伐要請が来るか分からない現状では頼りになる。
それと、もう一つ。


「あと、注文していた鎧の方だが」

「あー、それはもうちょい待ってくれませんか?同時進行って意外と厳しいんすよ」


この店は武器の製造が基本だが、実は金物であれば一通り作れるという。
それは身を守る盾や鎧であっても例外ではない。
その気になれば、日用品でも作れるようだ。
普通はどれか一辺倒だと聞くが、この男は何者なのだろうか?


「うむ、分かった」

「・・・しっかしベルテさんは堅いっすねー」

「私が硬いだと?」


突然何を言い出すのだこの男は。
まあ、今に始まった話ではないが・・・
仕事合間の雑談が好きとのことで、客によく話しかけてるのだそうだ。
だが、今まさに仕事中なのではないのか?
しかし、硬いか・・・


「確かに頭突きで敵をねじ伏せたことはあったな」

「いや物理的な話じゃなくて・・・いつも堅っ苦しいじゃないですか」

「私は騎士団員。それに副団長だぞ。厳格でなければ務まらん」

「そういうもんなんすかねー。もうちょい気楽にいきましょうよ」


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