第十三章†夜動く影†

肌寒い夜だった。
詩人ならばこの夜空に浮く星や月の光を神秘や美しいと絶賛する。
しかし体に強い冷えを感じてしまえば、そんな感想すら零す余裕もない。
馬を走らせているのならば尚更だ。

【バカラバカラッ】

夜の街道を数匹の馬たちが走り抜ける。
先頭にはその夜と同化したような黒衣の軍服の男、
その後に続くようにワーウルフ、リザードマン、ミノタウロス、
そのミノタウロスと共に乗馬するアラクネ、
更には馬そのものの体を持つケンタウロス、
そしてその上空を共に駆け抜けるブラックハーピー。


それらみなの表情はどこか固いものがあった、
無理も無いことだろう…彼女たちが今より赴く地は戦場…
己の命を落としてもおかしくない無法の地へと赴こうとしているのだ。


夜空の星月が美しければ、一方彼女たちはどうだ?
人ならざる尻尾や体、それこそ人以上に整った異様な肌…。
彼女たちと敵対する者たちはこれを醜く嫌うだろう…
しかしそれでも彼女たちが求め抱く信念は人と魔との理想郷。


それを叶えるため、彼女たちは武器を取る。
そしてそんな彼女たちを守る為、彼は武器を取って導くのだった。






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             ≪ザーン視点≫



三日前にあったカナリア公から告げられた要請の元、
私たち第四部隊はポルグラ町へとたどり着いた。
魔王領の国境近く位置する町であり、人口もさほど多くは無いが、
決して田舎というほどのものでもない。
現在は深夜近い時間帯という為もあってか、
家々の窓からは所々に明かりはあれど、
外にはまったくといっていいほどの人の気配が無かった。

窓から物珍しそうにこちらの様子を伺うものもいるが、
ソレすべてが町の住人のようで、
それほどの警戒されたような棘のある視線でもなかった。
私はともかく、魔物であるリゼッタたちの姿を見れば敵ではないという
判断がこの町の住人たちから既に下っているのだろう。


「………………………」



私を含め、第四部隊のみんなも周囲の異常なまでの静けさに
警戒の念と不気味さを感じていたが、
その静けさも建物の一角より感じた気配によって破られるのだった。


「シュザント第四部隊の方々ですね?」

『!』


その声に反応し、皆が目を向ければそこにいたのは
蛇の下半身を持つラミアの女性だった。
しかしその身から感じる鋭い気配と立ち振る舞いから、
経験と鍛錬を積んだ軍人だということが伺える。


「ご足労感謝いたします、我等が将が貴方方をお待ちです…
どうぞこちらへ、馬からお降りになって……詳しい話は将自らが…」

「…了解した。ノーザ、降りて来い」


上を見上げてノーザに声を掛けた後に目をやり、アイコンタクトを送れば
リゼッタたちはすぐさま馬から降り、ノーザもその横に着地した。
それを確認すれば、そのラミアはそのまま路地へと進み、
私たちもその後を追うように続く。
狭い道だが馬を引き連れる程度の余裕はある。


「…ノーザ」
「はっ」


その道中、私の前で先導しているラミアに聞こえぬよう
私は後にいたノーザに耳打ちした。


「上空から見た周囲の様子は?」
「はい、我々がやってきた町の入り口とは反対側の町の向こう…
そこに無数の光が見えました、恐らく松明による光だと私は思います…」
「距離は?」
「夜の為正確な位置はわかりませんが、
恐らく馬で全力で走らせても二十分と掛かりません」
「………国境城塞か」
「……恐らくは…」

「みなさん、こちらになります」


会話を中断するかのようにラミアの声に導かれ、
我々はその辿りついた場所を見た。
周囲に背の高い家々に囲まれながら、
どこかこの裏路地に並ぶ建物とは雰囲気の違う木製の古い建物だ。
廃屋のような印象もあるが、蜘蛛の巣などが見当たらないことから、
多少なりの手入れがあることが伺える。
先程も言ったと思うが、周囲に背の高い家々が立ち並ぶなかで
妙に小さめの建物の為、表通りからの松明の光がほとんど届かず、
変わりに遥か頭上で私たちを照らす月の光が一番の光明だった。

「どうぞみなさん、我等が将はこの先です。
お乗りになってきた馬も連れて……」

…馬も?一瞬気になりはしたが、
そのラミアがある程度大きめの扉を開き、
その中に馬を引き連れ入っていく。
建物の中もかなり薄暗く、周囲にいくつか蝋燭が立ってはいるが
人間の私ではとても見渡せたものではない。
しかし、その蛇独特な体を持つラミアに導かれながらも
その建物の奥深くまで進むと、次第にその建物の正体が見えてきた。

「…馬小屋?」

その答えを私の後
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