店兼家のドアが開き、入って来たのは知り合いの刑部狸。剣の出来を鑑定するように凝視して数本手に取ると、すぐさま机の上に置き、
「これは剣の代金ね」
背負っている箱を下ろし、中からお金を‥小さな袋に分けて、剣の隣に置いてから、1本つづ丁寧に箱の中に入れていく。それから‥店の中を隅々を見るように頭を動かして、ある一点を見詰め、暫く考えるように唸り声を上げて………
「そだ。この短剣借りていい?」
軽く頷くと顔は喜色に変わり、ニシシシと笑い声を漏らしている。
「新しい商売。新しい顧客を思い付いた。んじゃ、善は急げってね♪♪近い内にこの短剣を返しに来るから、その時は新しい注文をいれるね」
入れていた剣の他に、色々な物が沢山入っている箱を難なく背負い、上機嫌で柔やかな顔で手を振っている。私がお金の入った袋を片付けていると、途端に口許だけをニヤリと歪ませていた。帰る時は必ずあの顔。だから、これはきっとジパング流の挨拶なんだと思う。
刑部狸が出ていくと私はそのお金を持って、材料を‥質の良い鉱石を買いに知り合いのドワーフの所に行き、残ったお金で食料を買い、また剣を作る。私はこの日常を送り続けていた。でも……
それから数日が経ち…。ドワーフや刑部狸とは違う、人間‥均整のとれた顔の青年が訪ねてきて、家の場所は刑部狸から聞いたと言ってる。そして、お金の入った皮袋を机の上に置き‥刑部狸が置くお金とは違い、重みのある音が聞こえた。
「これで剣の製作を依頼したい」
青年の口から出た一言。私は袋の中に手を入れて、刑部狸が支払う金額の1本分を手に取ってから、皮袋を青年に向かって押し返せば、青年の顔からは思慮の色が濃くなっていく。
「このお金は悪いことをして貯めたお金じゃない。剣を作ってほしいから貯めたお金なんだ。だから‥作ってもらう対価として受け取ってほしい」
誠意のある懸命な目と顔。私はこれほどのお金は要らないから、首を横に振ると、青年は口をつぐみ、顔は更に思慮に深く染まっていき‥
「わかった。なら‥金額は言い値でいい。でも‥引かれている分の、適正価格分の手伝いをさせてほしい」
私が頷くと青年は手を出し、私もその手を取って固く握手を交わした後、必要な鉱石を‥ドワーフの鉱山で別けて貰おうと考え、これから取り行く用意をしようとふと外を見ると‥窓から朱色の光が射している。
今から取りに行けば着くのは夜‥。ドワーフも眠っている。迷惑だと思い、明日に出直そうと結論を出して、今日は店を閉じて奥に行くと青年も後をついてきた。
「料理を作るから、そこに座っていて」
青年が作る料理に期待して、隣に立ってずっと見ていた。
「こう見えても、冒険をしているから、夜営も馴れている。だから料理の腕も期待してほしい。それに‥こっちから言った以上、半端な事はしない。約束する」
真剣な眼差しで言い切り、食料を入れている場所を指で示すと、献立を決めていくように呟いていき、ナイフを片手に手際よく下拵えをして、時間を追う毎に次々と出来上がっていく料理に舌を巻いた。
「召し上がれ」
テーブルの上には作ったことがない料理が並び、部屋中は良い香りで満ち溢れている。
「いただきます」
青年が見詰めている中、一つの料理に手をつけ、
「おいしい」
思わず声が漏れた。
「本当は‥味付けの好みが違ったらどうしようとか、不安が多かったけど‥喜んで貰えて本当に嬉しい」
明るい笑顔で喜ばれて、心の中にゆっくりと感じたことがない気持が広がっていくのを感じる‥。なんだろう‥この気持ち‥。不思議と暖かい。
もっと感じていたいから少しの間、胸に手を当て目を閉じて……そして、青年の視線を感じて視線を合わせると、驚くように目を見開いた後、顔を赤くしたまま視線を下に向けて、頬を指で軽く掻いて、何かに気がついたような表情に変え、
「いただきます」
挨拶と共に青年も夕食を口に運んでいく。
刑部狸やドワーフと一緒に食事をすることはある。近況や世間話。2人は話して私は聞いているだけ。その時とは違い青年は何も話していない。それなのに‥この青年と食べる食事は不思議と心地良さと温かさを感じる‥。
「「ごちそうさまでした」」
挨拶を交わし、青年が洗い物をしている間にも夜は深くなっていき、空いた時間で明日の予定を組んでいる内に‥自然とウトウトしてしまい青年に起こされたらしい‥。頭が覚めていないから何を言っているか全く分からない。適当に頷いて、青年を抱えて、そのままベッドに入り、暖かさを‥温もりを感じて目を閉じていく‥。
この状況。本当にどうすればいいのか解決の糸口が全く見えない。
頬杖をついて寝ていたから、「風邪を引くから、ベッドに入って眠って下さい」と言って身体を揺らしていたら、トロンとした目を開けて、頷いた後‥何故か両手を背中に
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