ハロウィンから遡る事、その前日‥。
ホームルームを終えて、児童が次々と教室から帰っていく中。ワーキャットのあきらだけは席から立つこともなく、ずっとイスに座ったまま、俯いて……僕からはその表情を窺い知る事は出来ない。でも‥重要な何かを抱えて、悩んでいるのかも知れない。
「なあ、あきら‥。悩みとか何かを抱えているなら、話し辛くても、打ち明けてほしい。僕は‥先生として頼りないかもしれない。でも‥あきらはクラスで受け持っている児童だから、だから‥力になりたい」
クラスの児童は全て帰ったのを見計らい、教室のドアを閉めてから、あきらと机を挟み、向かい合ってイスに座った。
沈黙の中。時計の音だけが過ぎていく時間を知らせていき、そして‥
「あのね‥ゆう先生。その…。その…」
顔をゆっくりと上げていき‥赤く上気していたその顔に思わず息を飲んだ。
「明日‥。その‥ハロウィン…。ハロウィンだから‥」
「お菓子を沢山用意しているから、好きなだけあげるよ」
「ちがうの‥。おかしじゃなくて…その‥。おかしはいらない。だから、その……ゆう先生に‥いたずらを‥」
口を閉じ、声の代わりに僕の手を取り、あきら自身の胸へと当てられていった。驚きが頭の中が埋め尽くされていく中。破裂しそうな程の早い鼓動が手を通して伝わってくる。
「その…。その…。ちょっと前に血が出て‥血っていっても、けがじゃなくて……。その‥大人になれた印で‥だから、お父さんとお母さんがよろこんでくれて……。だから‥その……。
だから‥ゆう先生…わたし……もう、子供じゃない。だから‥」
口は再び閉じられた。でも‥大人顔負けの色香がこの先の言葉を紡いでいる。
本当なら大人として、教師として理性を保つ場面。でも‥目の前にいるのは教え子ではなく、僕を男として見て、真剣に悩み、考えている1人の女性。
それに‥あきらは勇気を持って僕に答えた。だから‥次は僕が答えを出す番だ。
ゆっくりと目を閉じていくのと同時に、大きく息を吸い‥その一瞬の間に、今までの学校生活の思い出されていく。そして‥
「家の鍵を渡すから、取りに戻るまでの間、教室で待っていて」
あきらは頷いて返し、僕は前髪を掻き分けてから額にキスをして、更衣室に向かった。
つい昨日。いや‥先まで子供と思っていたのに、女の子の成長の早さを……愚息が自然に反応しきっていた事に驚き、そして‥今も収まってない愚息を学級日誌で隠して、更衣室を目指して…出来ればこの不自然な歩き方を、他の誰かにも見られないように、祈りながら廊下を歩くも‥祈りが通じたのか不思議と教師の誰1人とも会わなかった。
「これが家の鍵だから無くしたり、落としたりしないでくれよ」
「子供扱いするの?」
口を尖らせて、贔屓目で見ても大きいとは言えない胸を精一杯張っているが‥尻尾は嬉しい時と同じ揺れ方をして、別の反応見たさについ頭を撫でようとしている僕がいる。
「親御さんには僕から連絡を入れようか?」
「ハロウィンパーティーでとまるからって言うからだいじょうぶ♪♪」
無邪気な笑顔で返してくれるのは嬉しい。でも‥愚息が素直に反応する事をこれ以上止めてほしいと同時に思う‥。そして‥教室で別れた後……職員室の前を通りかかり‥中で会議をしていたことを完全に忘れて‥たくさんの白い目と小言をいくつも貰ってしまった…。
「疲れた‥」誰にも聞こえないように、一言だけ心に漏らし、日が沈みきった夜道を1人で歩いている。会議の後の精神的な疲れから、晩ごはんを自分で作る気にはなれない。だからといって、あきらに作らせるのは気が引ける。考えに考えた結果。コンビニに寄って、迷いに迷った結果。同じご飯を2つづつ買って、家に‥明かりがついている事に安心して、家に入った。
「ただいま……」
「お〜〜そ〜〜い!!」
あきらは居間のソファーに腹ばいになって僕を見ている。声からすれば、小さい大人はご立腹。でも‥尻尾だけは歓迎している。
「ごめん。ごめん。会議とか色々あって‥晩ごはんを買ってき……」
あきらのすぐ横にある、お菓子のゴミで溢れかえっているゴミ箱を見て声を失い。あきらに視線を合わせれば目は泳ぎ、尻尾は先の勢いを完全に失っていた‥。
気を取り直して、ソファーと向かい合うようにイスとテーブルを運び、その上に晩ごはんを並べていく。
「ご飯、食べる?」
「ううん‥先に食べちゃったから、入らない…」
首を振って答え、顔と尻尾からしょんぼりとしているのは窺える。
冷蔵庫に食べる物が入っている事を伝えなかった僕にも非がある。だから怒るわけにもいかない。
ただ‥2人で囲って食事を摂りたかったけど…日を改めれば機会はいくらでもある。前向きに考えて、1人で食事を摂り……夜も遅く、時間が過ぎていった。
あきらは床にうつ伏せに寝転んで、足をバ
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