主に仕える喜びを与えたというのに、何に不満がある?

人通りの多い大通りの中、1人の男とすれ違い、そして‥不意に訪れた吸血衝動。
今はまだ駄目だ。ここは人通りが多すぎる。衝動を理性で強引に捩じ伏せて、今するべき事は‥所用を放り、あの男の血を吸うことだ。決めるとすぐに踵を返し、そして……
足音を立てず、けして悟られないように慎重に追い‥男が家に入ったのを確認した。だが‥この家が男の家とは限らないと考えて、私は近くに隠れて暫く待った。
物陰から見張り続ける事数刻。出てくる気配は無い。ならばここが家なのか?いや‥判断材料が少なすぎる。その上で答えを出だすにはまだ早計だろう。ここまで来て、見失ったとすれば‥それは馬鹿げた話だ。
その間にも陽は傾き続け、青かった空は次第にオレンジへと変わり、いつしか漆黒に染まっている。
私を妨げる陽の存在は既にない。それと同時に全身に力が漲ってくる。手を見つめ、確認するように手に力を入れて、ゆっくりと握った。
男が出てきた素振りはない。今なら鍵を掛けて籠城しようが、何をしようが、無関係に破る事ができる。

即決で行動を起こし‥案の定鍵を掛けていた。だが、構うことなく力の限りドアを引けば、何かが壊れる音と共にあっさりと外れ、その場に放り捨てた。続けて見たのは男の顔。この男の顔に間違いはない。だが‥私を見て明らかに不快感を示しているのはなぜだ?

まあいい。目当てはあくまでも血。一気に駆け寄り、その無防備に晒されている首元に犬歯を一思いに突き立てた。
嫌な雑味が一切なく、香りのよい甘い味が喉を潤していく‥。やはり直感に従った事は間違いではない。
しかし‥私の背中に手を回して、抱き寄せてくるとは‥。恋人気取りか?まあ、血が吸える対価と思うからこそ耐えられるが、こうも気安く触れてほしくないものだな。
それとは別に‥下腹部に硬いものが押し付けられている気がするのだが‥これは一体なんだ?

今ここでこの血を吸い尽くすのは惜しい。さて‥どうしたものか……。この男。私から離れる素振りを一向に見せない。ならば‥屋敷に連れ帰ったとしても文句はあるまい。朝は雑用係りとして使い、夜にその血で喉を潤す。全くもって無駄がない使い方だ。それに生活の保証は私がするのだから、男にとっても悪い条件ではないだろう。
少々手荒な手段で気を失わせ、男を引き剥がして、連れ帰り、空いている部屋のベッドの上に放り込むと、私は自室に入った。
椅子に座り、目を閉じて、満ち足りた充足感を反芻している内に、意識が遠退いていくのを感じていた‥。



ここは‥。ああ。そうか‥私の部屋か。周りを見渡しその判断を下した直後、ゆっくりとドアが開かれ、あの男が入ってきた。そして……
私も男も惹かれ、求め合うように抱き合い、長く、激しい口付け。そして‥男は私を優しくベッドに寝かし、私の顔を‥視線を1回合わせた後に衣服のボタンをゆっくりと外していく‥。
再びの口付け。背中に手を回されて、露出した下着が外されていく‥。胸が外気に‥肌寒さを覚える刹那、男の温かい手が優しく包み込み、胸を丁寧に揉みほぐしていく‥。
口を塞がれていながらも、熱く甘い吐息が漏れてしまいそうだ。
そして、男の手は‥胸の間を通り、臍に触れ、更に下へ潜み……指が優しく触れる度に、衝撃が熱が身体中を駆け巡り、そして‥身体が、心が蕩けていく……
今すぐ口を離して、大量の空気を胸に吸い込み、声に出して表したい。だが‥男の腕が私の首に回されて、離れる事が出来ない。私は男のなすがままにされて………


ここで私は目を覚ました。窓から射す光が朝だと教え、心臓が今まで感じたことがないほどに早く鼓動を打っている。
「夢か……」
独り言を呟き、ひんやりと寒気を感じた身体に目を移し‥思わず息を飲んだ。
今の私は夢と同じように胸をはだけさせて、右手は胸を包み、左手は下へ‥下腹部に潜ませている事に硬直し、そして……自らがしていたとされる事を考え、
「私が人間と交わろうとするなど‥馬鹿馬鹿しい」
導きだした答えを‥自身を強く否定するために声として表し、それから‥湿り気を帯びていた指を拭い去り、衣服を乱れを直して、朝食のために部屋を出たが、食堂よりも先に向かったのは、不思議と男を放り込んだ部屋。だが‥男の姿はそこになく、行き先について思考を巡らせた。
実際。私も見知らぬ所で目を覚ませば、まずは情報収集のために、探索を始めるだろう。
いや……自宅に帰ろうと既に屋敷を出ている可能性もある。陽の下で力が入らない身体で不安を払拭するように、屋敷の中を力の限り走り回った。


疲れ果て、壁を背にして床に座り込み、大量の空気を吸おうとするも、胸が苦しい。他の使用人に声を掛けて、探させるか?いや、男の事は誰も知らない。容姿や特長を説明しているよりも、やはり私が直に探し見つけるべきだ。
気力を奮い、立
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